研究課題/領域番号 |
17H04090
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
谷内 一郎 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (20284573)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 転写因子 / アミノ酸置換変異 / T細胞 / 遺伝子発現制御 |
研究実績の概要 |
Runx/Cbfb転写因子は多様な細胞種の発生・分化プログラムを制御する重要な転写因子である。これまでの研究成果より、Runxタンパク、CbfbタンパクのC末端のアミノ酸配列がRunx/Cbfb複合体の機能制御に極めて重要な役割を果たすことが判明した。本研究提案ではその分子機構の実態を解明することを目的とした研究を行った。特にCbfb2特異的配列とRunxタンパクのC末端のWRPY配列を介した制御機構に着目し、これら配列を介した制御機構の分子実体を解明する。 野生型とCbfb2欠損マウス由来の胸腺細胞を材料とし、抗Cbfb抗体を用いた免疫沈降-プロテオミクス解析を行ったが、Cbfb2と特異的に会合する分子は同定出来なかった。また Cbfb2特異的なSXLL配列を欠損するマウスを作製したが、Cbfb2欠損マウスにみられる特徴的な表現型は観察できず、Cbfb2特異的なRNAスプライシングはCbfbの総タンパク量の調整に関与することが考えられた。 Runx3タンパクのWRPY配列をWRPW、WRPF、WRPEに置換した変異マウスの表現型解析から、Y残基のリン酸化の可能性と表現型へのTLE共役抑制因子の関与が示唆された。Y残基がリン酸化された合成ペプチドとTLEファミリーWDドメインとの親和性測定を行うため、昆虫細胞でのWDドメインの産生を共同研究で行った。またY残基のリン酸化の同定を目的に、モノクロナール抗体の産生を試みた。Runx3-WRPW変異マウスとTLEファミリー変異マウスを交配し、Runx3-WRPW変異マウスの表現型はTLE3欠損により部分的に回復することを確認した。また野生型Runx3と変異型Runx3-WRPWにFlagタグ配列を付加したマウスを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Runx/Cbfb2複合体特異的に会合する分子の同定については、実験系の構築と施行は予定通り順調に行ったが、その結果は予想に反しCbfb2と特異的に会合する分子は同定出来なかった。この結果は、新規に作製したCbfb変異マウスの表現型解析の結果とも合致することから、Cbfb2を産生するRNAスプライシングはCbfbの総タンパク量の調整に関与することが考えられた。このことから、研究をCbfb1及びCbfb2を産生するRNAスプライシングの量的変化を計測する方向に変更し、これらRNAスプライシングをCbfbと蛍光タンパクとの融合タンパクの発現により生体内で可視化出来るマウスの作製に成功したことから、研究結果から研究の方向性を迅速に変化することで、良く対応できたと考えている。 Runx3-WRPW変異マウスについては、TLEファミリー変異マウスとのダブル変異マウスとの交配により、Runx3-WRPW変異マウスの表現型はTLE3欠損により部分的に回復することが確認できた。これまでRunx3-WRPW変異ホモマウスではRunx3-WRPW変異を持つ細胞が消失することから、分子生物学的、生化学的解析が困難であったが、Runx3-WRPW/TLE3ダブル変異マウスからはRunx3-WRPW変異細胞の調整が可能となることから、今後の多くの解析が可能となる。またY残基のリン酸化の検討については、ウサギモノクロナール抗体の作成を行っており、ELISAでの検定ではY残基のリン酸化修飾を持つ合成ペプチドに高い親和性を示すウサギ血清を得ることができている。また野生型Runx3と変異型Runx3-WRPWにFlagタグ配列を付加したマウスの作製にも成功した。 以上、研究実施において幾つかの予想外の困難な状況に対し、適時迅速に対応しており、研究は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
CbfbタンパクのC末端のアミノ酸配列の機能解析に関してはプロテオミクス解析、新規に作製したCbfb変異マウスの表現型解析から、Cbfb2特異的なC末端アミノ酸配列に特異的に会合する分子は少なくとも胸腺細胞内ではないことが判明したことから、Cbfb遺伝子のRNAスプライシングはCbfbタンパク量の調整に関与することが考え、Cbfb遺伝子のRNAスプライシングを生体内で可視化する為に新規作製したレポーターマウスの解析を行う。またCreタンパクの発現によりCbfb1及びCbfb2を発現するトランスジェニックマウスを作製したので、Cbfbタンパクの過剰発現が細胞分化に及ぼす影響を解析する。 RunxタンパクのC末端構造を介した制御機構の解明においては、Runx3-WRPW変異マウスの表現型を回復する遺伝学的手法(TLE変異マウスや活性型STAT5トランスジェニックマウスとの交配)による結果はある程度得られていることから、今後は生化学的、分子生物学的解析に焦点を絞り研究を行う。特に、最後のチロシン残基のリン酸化の検出と責任キナーゼの同定を行いたい。また新たにHes1タンパクのWRPW配列をWRP及びWRPYに置換したマウスを作製したのでその表現型解析を行い、逆の方向への相補的な変異導入がHes1タンパクの機能にどの様な影響を及ぼすか解析する。
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