研究課題
1.N1-methyladenosineの薬物動態試験:N1-methyladenosine(N1MA)はmMate1基質となることから,Mate1阻害剤であるpyrimethamine (PYR) がN1MAの腎クリアランス(CLR)に与える影響をマウスin vivoにおいて評価した。PYR投与によりCLRは有意に低下した。N1MAはヒト強制発現系では腎特異的なMATE2-K基質となることを確認しており,OCT2に加えてMATE2-Kの内在性バイオマーカーとなることも期待される。OCT2のアミノ酸置換を伴うSNP(808G>T)の影響を受けないこと,trimethoprim, PYR,cimetidineによる阻害効果を検討した結果, OCT2に対するKi値は対照薬であるmetforminに比べて,N1MAでは低値を示し,基質依存性が認められた。N1MAの血漿中濃度と関連するOCT2 SNPを整理し,イントロン領域にホットスポットがあること,ならびに3’UTRのSNPとも関連していることを見出した。2.PaclitaxelによるOATP1B阻害試験:OATP1B1*15で層別化された臨床検体で,CP-I,GCDCA-Sほか胆汁酸硫酸抱合体ならびにジカルボン酸の結晶中濃度を測定し,*15ホモ接合型では,野生型ホモ接合型・ヘテロ接合型に比較して,血漿中濃度が高いことから,これらの化合物がOATP1B1に対して選択性が高いことを示した。PaclitaxelによるOATP1B1およびOATP1B3阻害作用は,間依存性を示し,プレインキュベーションにより阻害効果の増強が認められた。3.イリノテカンの薬物動態試験:イリノテカンおよびその代謝物の遊離形薬物分率の測定のための準備,および内在性化合物を測定するための準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
腎有機カチオントランスポーターの内在性基質として見出したN1MAについて,排出側トランスポーターとしてMate1およびMATE2-Kの重要性を明らかにした。阻害剤の基質依存性についても,阻害剤によっては対照薬よりも小さいKi値を示し,DDIリスクを過小評価する可能性は低いと考える。アミノ酸置換を伴うOCT2 SNPでは影響が認められなかったが,N1MAの血漿中濃度と関連するSNPはイントロン,3’UTRに位置し,転写因子の結合,miRNAとの相互作用など,個体間変動を生じる要因と考え,腎排泄過程に個人差が生じる要因に対する理解を深めるものと期待する。また,OATP1Bの内在性バイオマーカーについては,OATP1B1の遺伝子多型との関連を示すことができ,肝取り込みにおける寄与率に関する情報を得るなど,内在性化合物の体内動態特性に関わる分子に対する理解を深めることに成功している。
OCT2 SNPについて,エンハンサーとしての機能,miRNAによる翻訳抑制など,N1MAの血漿中濃度の個人間変動に繋がる機序を解明することで,薬物の腎排泄における個人差が生じる要因に対する理解を深める。また,内在性化合物の定量において,立体異性体をクロマトグラフ上で分離するには至っていなかったが分析条件を見直し,分離定量が可能となった。CP-IおよびCP-IIIについて,リファンピシンを用いた試験で応答性が異なることが示され,また,胆汁酸では,一次胆汁酸と腸内細菌叢で生成する二次胆汁酸を分離することで腸内細菌叢による代謝の個人差を排除することができる。臨床検体を再解析することで,より信頼性の高い結果をえることができるものと考える。OATP1B1の遺伝子多型と関連する代謝物,CP-Iなど既知内在性基質の類縁化合物にも拡張し,研究者の選択肢を増やすことを進めていく。これらの知見に基づいて,イリノテカンによる下痢の副作用と関連のある代謝酵素・トランスポーター機能との関連について,検討する予定である。
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