研究課題/領域番号 |
17H04102
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝司 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 教授 (00184656)
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研究分担者 |
辻 大輔 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 助教 (00423400)
広川 貴次 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究チーム長 (20357867)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオ医薬品 / 糖タンパク製剤 / リソソーム病 / ドラッグデリバリー / 糖鎖工学 |
研究実績の概要 |
1. ヒトリソソーム性カテプシンA(CTSA)を後部絹糸腺で高発現する組換えカイコを、つくば農研機構との共同で作製し、生物機能を保持したCTSA前駆体タンパク質を繭から簡便に抽出・精製する方法を確立した。繭由来精製CTSA前駆体には、高マンノース(Man)型、混成型及びパウチマンノース型などの、ヒトN型糖鎖の部分構造をもつことが判明し、昆虫特異的糖残基は含まれないことが示された。また精製CTSA前駆体は、in vitroで単離ヒトノイラミニダーゼ1(NEU1)と会合して、NEU1活性化能をもつこと、またトリプシン処理により、CTSA成熟体(活性型)に変換できることを明らかにした。 2. スプライシング異常誘導型Ctsa劣性変異導入マウスの作製に成功し、各臓器におけるCtsa及びNeu1活性が同時に野生型マウスの10%以下まで低下し、またNeu1の基質となる末端シアル酸含有糖鎖が増大していること、遺伝性CTSA欠損症であるガラクトシアリドーシス(GS)患者と極めて類似した症状を示し、GSモデルマウスとして利用できることを明らかにした。 3. このGSモデル成体マウスの脳では、スフィンゴ糖脂質であるガラクトシルセラミドやスルファチドの含量が低下しており、オリゴデンドロサイトの発生異常やミエリン形成不全などが示唆された。 4. GS成体マウスの脳室(脳脊髄液)内に、繭由来精製ヒトCTSA前駆体を投与すると、神経炎症の誘因の一つである脳内ミクログリアの活性化と炎症性ケモカインの一種Macrophage inflammatory protein 1α(Mip1α)の分泌が抑制されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで治療薬がない、リソソーム病の一種であるヒトCTSA欠損症(ガラクトシアリドーシスGS)のマウスモデルとして、日本人若年・成人型症例でも共通して認められる、スプライシング異常を誘導する5’スプライス部位の点変異をマウスCtsa遺伝子に導入した変異ノックインマウスを作製し、患者と同様の、ミオクローヌス、脊椎彎曲、腎障害、顔貌異常などの臨床症状を示すGSモデルマウスとして利用できることを明らかにした。連携研究者の山本圭博士、池田和貴博士らと本GSマウスの分子病理学的解析を進めるとともに、連携研究者の瀬筒秀樹博士、立松謙一郎博士らとの共同で、ヒトCTSA遺伝子を絹糸腺で高発現する組換えカイコ系統を作製でき、その繭からの生物機能を保持したCTSA前駆体タンパク質の簡便な抽出・精製方法を確立しつつあるため。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度以降は、ヒトCTSA遺伝子を恒常発現し、細胞外に分泌する哺乳類培養細胞株から、ヒトCTSA前駆体タンパク質を精製し、GSマウスの脳室内(脳脊髄液)内に投与し、同マウスの中枢神経症状(ミオクローヌス等)に対する有効性を検討していく。 またこれまでに、ムコ多糖症1型の責任酵素である、α-イズロニダーゼ(IDUA)を絹糸腺で高発現する組換えカイコの繭にも、活性型のIDUAが吐出され、抽出・精製が可能であることを明らかにしている。さらに自然発症のIDUA欠損症ニホンサルが発見されたため、今後、IDUA発現組換えカイコの繭から精製したヒト酵素の、IDUA欠損症ニホンサルへの有効性評価を検討していく予定である。
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