我々は、これまでにヒト肝におけるDNAメチル化状態がCYP3A4発現の個人差の原因となることを示唆する結果を得ている。DNAメチル化状態は各臓器由来の細胞ごとに異なることが知られているため、ヒト肝におけるDNAメチル化状態を解析するためには肝臓の生検が必要であるが、被験者への負担も大きいためDNAメチル化解析は困難であった。 前年度までに、我々は免疫磁気分離による末梢血からの肝細胞分離方法を確立した。本年度は、確立した手法を用いた「健常成人を対象とした末梢血肝由来細胞のDNAメチル化解析に基づくCYP3A4活性予測に関する臨床試験」を行った。本試験では血中から分離してきた肝細胞由来DNAのメチル化状態とCYP3A4の基質として知られるミダゾラムの体内動態との関連を明らかとすることで、肝由来細胞のDNAメチル化状態が肝臓に発現するCYP3A4機能のバイオマーカーとなり得るか否か検討することを目的とした。CYP3A4活性を評価するため、CYP3A5活性を保持しない遺伝子型であるCYP3A5*3ホモ型保有者を選択した。これらの遺伝子型とメチル化の異なる健常成人20名を対象とした。ミダゾラムの経口(5 mg)または静脈内(1.5 mg)投与により得られたミダゾラムならびにミダゾラム水酸化体の血中濃度より、 各被験者のAUC(血中濃度-時間曲線下面積、area under the blood concentration-time curve)・クリアランスをはじめとする薬物動態パラメータを算出した。ミダゾラム/ミダゾラム水酸化体AUC比と被検者の末梢血から得た肝由来細胞中のDNAメチル化頻度の間には、負の相関傾向を認めた。本試験により、DNAメチル化がCYP3A4活性予測のマーカーとして応用可能であることが認められた。本知見は医薬品開発や医薬品の個別適正化使用に有用となる。
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