研究課題
これまで、シスプラチン (CDDP) 誘導性急性腎障害モデルにおいて、硫酸転移酵素 Sult1a1 がインドキシル硫酸 (IS) の蓄積に伴う腎組織障害の病態進展並びに付随する尿毒症の治療標的として有用である可能性を示した。2019年度は、1) 他の急性腎障害モデルでの標的妥当性検証、2) スクリーニングアッセイにおける Sult1a1 阻害候補化合物の高次評価系構築と活性評価、および 3)IS による腎組織障害の病態進展機序の分子薬理学的解明を実施した。急性腎障害モデルによる標的妥当性検証として、マウス両腎虚血再灌流 (IR) 誘発性急性腎障害モデルを構築し、IR により腎機能障害が誘発されることを確認した。また、IR 処置後に既存の Sult1a1 阻害化合物である meclofenamate を投与することにより、IR 処置に伴って増悪した腎機能が改善されることを確認した。培養ヒト近位尿細管上皮細胞 (HK-2 細胞) を用いて、CDDP および IS 処理後の種々の細胞応答を精査した。HK-2 細胞に CDDP および IS を共処理 (CDDP+IS 共処理) した結果、顕著な細胞障害が惹起された。また、CDDP+IS 共処理により活性酸素誘導の重要な因子の一つであるキサンチンオキシダーゼ (XO) の発現が有意に上昇した。一方、IS をリガンドとして認識する芳香族炭化水素受容体 (AhR) の発現を低下させた HK-2 細胞においては、CDDP+IS 共処理による XO 発現上昇が抑制された。さらに、CDDP+IS 共処理は、CDDP および IS 単独処理と比較して、有意に活性酸素種 (ROS) 産生を亢進した。このことから、IS は近位尿細管上皮細胞において、IS-AhR-XO 経路を介して酸化ストレスによる腎機能・組織障害を増悪する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
硫酸転移酵素Sult1a1が硫酸抱合型尿毒症物質の蓄積に伴う腎組織障害の病態進展、並びに付随する尿毒症の治療標的として有用である可能性を突き止めた.Sult1a1欠損マウスにおいて、シスプラチン投与に伴う血清及び腎組織中インドキシル硫酸(IS)の蓄積量が対照マウスに比較して顕 著に低減すること、それに伴い腎機能および腎組織内酸化ストレスの蓄積が抑制され、腎組織病変も顕著に軽減されることを認めた.シスプラチンを投与したSult1a1欠損マウスにISを追加投与することにより、腎組織中の酸化ストレス亢進とともに腎機能障害が再現されることを確認した.さらに、腎組織内IS蓄 積量に関連してキサンチンオキシダーゼの発現が亢進することを突き止め、IS誘因性の酸化ストレス発生に本酵素が密接に関与していることが示唆された.Sult1a1 遺伝子欠損マウスにおいて、IS蓄積の減少に伴い,インドキシルグルクロン酸抱合体の産生が代償的に亢進していることを確認した.腎虚血再灌流処置をした Sult1a1遺伝子欠損マウスにおいて,ISが腎障害増悪因子として関与していることを実証することができた。
1.慢性腎不全マウスにおける硫酸抱合型尿毒症物質産生阻害薬の腎保護効果の検証1) Sult1a1欠損マウスを用い、アデニン投与による慢性腎臓病モデルを作成し、腎機能・組織変化について比較精査を行う。本疾患モデルマウスは、病態形成におよそ10週間程度を要するため、経口投与開始時期、投与量・投与間隔等の投与条件・スケジュールの綿密な設定を行う。対照C57BL/6およびホモ接合体Sult1a1欠損マウスを用い、生食投与のみ行う対照マウス、アデニン投与マウスの各グループを作成する。Sult1a1欠損マウスにおける腎機能変動、Nrf2活性化作用、組織障害の比較評価を行う。評価項目として血清中並びに組織中インドキシル硫酸及びp-クレジル硫酸濃度、腎機能マーカー(血清クレアチニン、血清尿素窒素)、腎障害バイオマーカー(Kim-1、Ngal、L-FABP、尿中アルブミン)について比較精査を行う。インドキシル硫酸の腎不全進展作用を確認するため、比較対象としてAST-120(クレメジン)を用いて比較試験を実施し、腎機能保護効果及び障害進展度について検証する。2.硫酸抱合型尿毒症物質産生阻害薬物のin vitroスクリーニング1)既に確立したインドキシル硫酸産生系を用いたin vitroスクリーニング法を活用し、提携企業が保有する化合物ライブラリから定性的・定量的にSULT阻害活性を示す化合物を探索し、シーズとなる候補薬物の選定試験を展開する。本スクリーニング系は、動物肝臓より遠沈・分離によりS9画分を精製した後、インドール添加による尿毒症物資の代謝産生活性を測定する反応系である。インドキシル硫酸と同時に、CYP2E1/CYP2A6により産生されるインドキシル、インドキシルグルクロン酸抱合体についても定量測定する。尿毒症物質はLC-MS/MSを用いて定量解析を行う。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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