近年、脊髄痛覚伝達の可塑的変化により疼痛が発症することが報告されているが、さらに上位中枢における疼痛の発現や慢性化の機構、意識・精神、認知・想起などヒト高次脳機能が如何に疼痛と密接に関わるかは、未だ不明なことが多い。そこで本研究は高次脳機能を司る大脳新皮質や情動など本能的欲求に関わる辺縁系の痛みに着目し、これら脳領域の疼痛高次脳連関機構を調べる研究を遂行した。今年度は、前帯状回にみられる生理的な痛み刺激特有の応答に着目し、病態モデルにおける神経応答の変容、それを抑制し鎮痛する機構の詳細を解析した。 1) In vivo前帯状回から記録を行うと、後肢皮膚への機械的刺激に対し活動電位が発生し、その発生頻度は刺激強度に依存して増大した。一方、アロディニアを呈する末梢神経傷害モデル動物から記録を行うと、機械的刺激の閾値が低下し、非侵害性の触刺激によって活動電位の発火が増加した。この応答は刺激期間中持続し、刺激終了後にも数秒にわたる持続性の応答が観察された。これらの閾値の低下や持続生の応答は正常では観察されなかった。 2) 次いで、神経障害性モデル動物特有の神経応答を如何に抑制するか検討を行った。電位依存性Kチャネルを活性化させる化合物を投与すると、モデル特有の神経応答は投与量依存性に抑制された。また、化合物を帯状回に局所に投与しても同様の抑制作用が得られた。脳切片を用いた詳細な解析を行うと、この化合物はKチャネルを活性化して外向き電流を発生させずに、GABA受容体に作用して抑制性シナプス後電流を増大した。 以上より、疼痛の慢性化の機構としてモデル特有の帯状回神経応答や、それを抑制する機構の詳細を明らかにした。得られた基礎的成果は痛みを主訴とする複雑な病態を理解する上で、また、新規鎮痛法の開発を行う上で有用と思われる。
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