研究課題/領域番号 |
17H04115
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮本 直樹 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (00552879)
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研究分担者 |
鈴木 隆介 北海道大学, 大学病院, 助教 (00400052)
前田 憲一郎 北海道大学, 大学病院, 特任助教 (20790827)
富岡 智 北海道大学, 工学研究院, 教授 (40237110)
鬼丸 力也 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (80374461)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 動体追跡放射線治療 / 呼吸性移動対策 / 回転照射 / 体幹部定位照射 / 体内マーカ / 医学物理 |
研究実績の概要 |
体幹部定位照射のさらなる寡分割化の潮流があり、より安全で高精度な治療技術が必要となってくると考えられる。本研究では、次世代の体幹部定位照射として、高線量率回転照射と、体内の腫瘍位置に基づいて治療ビームを制御する動体追跡照射技術を組み合わせた動体追跡回転照射の基盤技術の研究開発を進める。これにより、治療時間を大幅に短縮し、かつ患者にとって負担の少ない適切で安全な治療の実現につながると期待できる。 平成30年度は、(1)回転照射に対応したX 線透視によるボリュームデータ合成技術の検討、(2)画像処理による散乱線アーチファクト除去の性能評価、(3)動体ファントムを用いた線量検証の基礎評価、を実施した。(1)については、体内に留置された複数個の体内マーカの運動に基づいて周辺臓器を含めたボリュームデータを合成する方法を検討し、画像の合成精度を評価した(第116、第117回医学物理学会、2018 AAPM Annual Meetingにて報告)。(2)については、帯状に発生する治療ビーム散乱線アーチファクトの除去に加えて、散乱線除去後の画像に対して、フレーム毎のノイズを評価したうえでマーカの構造を維持したままノイズを低減する画像フィルタを新たに考案し、マーカ追跡の精度と安定性が向上することを確認した。(3)については、臨床使用している治療システムを利用し、動体追跡回転照射による線量分布を動体ファントムとフィルムを用いて確認した。動きを伴うターゲットに対しても、静止時と同様の線量分布が得られ、現行の固定多門照射と比較して照射時間を短縮できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的に申請時の実施計画に沿った研究開発を進めており、ほぼ想定通りの結果が得られていることから、現在までの研究開発の達成度は、おおむね順調に進んでいると自己評価した。平成30年度の主な成果としては、(1)回転照射に対応したX 線透視によるボリュームデータ合成技術の検討、(2)画像処理による散乱線アーチファクト除去の性能評価、(3)動体ファントムを用いた線量検証の基礎評価、の3つであり、いずれの項目においても計画通りの進捗であり、期待していた結果が得られた。(1)の開発では、複数のマーカの新しい利用方法として、ターゲット自体の位置を複数のマーカ位置から推定する方法を検討した他、ターゲットおよび周辺臓器の構造を体内マーカの位置から推定する方法を検討した。これにより、ターゲットの位置情報に加えて、体内構造も考慮した治療ビームの制御が可能になり、より高精度な照射を実現できると考えられる。(2)については、試験的に散乱線画像をシミュレートした画像を用いた評価をおこない、散乱線除去とノイズ除去を組み合わせた画像処理により、従来手法ではマーカ追跡が困難な状況においても、安定して追跡できることを確認した。(3)の線量検証については、動体追跡回転照射により、ターゲットが静止している状態と同様の線量分布が得られ、かつ治療時間を従来から20%程度短縮できる見込みを得た。当初、線量評価用の動体ファントムを製作予定であったが、呼吸運動を再現するための既存動体プラットフォームと強度変調放射線治療の線量検証ファントムを組み合わせることで、想定していた線量評価をより効率的に実施できることがわかったため、計上していたファントム製作費用を実験用消耗品に充当した。最終年度は、構築した線量評価体系を利用し、肺および肝臓の動体追跡回転照射を模擬した線量評価を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、これまに開発した要素技術を統合し、実験的に、ターゲット追跡精度およびターゲットへの線量の両面から、動体追跡回転照射の有用性を評価する。試験環境としては、実験用ライナック施設で基本動作確認した後、臨床治療機で最終評価を実施する予定である。この評価試験においては、(1)治療時間を従来よりも短縮できること、(2)体内マーカの追跡精度1 mmを達成できること、(3)平均肺線量等、危険臓器に対する線量を低減した計画線量分布が得られること、(4)実測において治療計画とう同様の線量分布が得られること、の4 点を重点的に確認する。研究を進める中で発生する課題については、臨床的アプローチによる解決、あるいはアルゴリズムなど技術改良による解決に分けて対応する。想定される課題の1 つとしては、頻繁なビーム照射の中断を必要とするケースへの対応があげられる。提案手法では体内を直接見るが故に、より多くのビーム中断を必要とし、治療時間が想定より長くなるケースもあると思われる。この場合は、線量分布の拡がりが許容できる範囲において、ゲート領域を広げることによる照射効率の向上を検討している。
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