研究課題/領域番号 |
17H04143
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鴨打 正浩 九州大学, 医学研究院, 教授 (80346783)
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研究分担者 |
福田 治久 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30572119)
松尾 龍 九州大学, 医学研究院, 助教 (60744589)
北園 孝成 九州大学, 医学研究院, 教授 (70284487)
馬場園 明 九州大学, 医学研究院, 教授 (90228685)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳卒中 / 機能予後 / 生命予後 / 生活の質 |
研究実績の概要 |
脳卒中前向き登録患者を対象に、短期および長期の死亡、機能予後における性差について検討した。また、原因不明の脳梗塞患者における脳卒中再発リスクに及ぼす抗血栓治療の影響について検討した。 急性期脳梗塞患者の入院中あるいは発症30日以内の死亡率は女性の方が高かったが、背景を調整すると女性は死亡リスクの低下と有意に関連していた。死因を脳卒中死亡、感染症死亡、その他の原因による死亡に分類し、死因別に死亡リスクの性差を調べると、女性は感染症死亡リスクの低下と有意に関連していたが、脳卒中死亡、その他の原因による死亡との関連は認めなかった。また、女性は入院中感染症発症リスクの低下、感染症発症後の死亡リスクの低下と関連していた。 退院後5年間予後の追跡調査を行った結果、女性は長期の死亡リスクが有意に低かった。一方、3か月後のmodified Rankin Scaleスコア(mRS)と6か月後、1年後、2年後、3年後、4年後、5年後のmRSを比較すると、男性に比較し女性は、機能予後改善(mRS1以上減少)が有意に少なく、機能予後悪化(mRS1以上増加)は有意に多かった。また、日常生活動作非自立(mRS3-5)、機能予後不良(mRS3-6)の割合は有意に高かった。これらの傾向は背景因子を調整しても同様であり、女性は脳卒中後の長期機能予後が不良であることが示唆された。 脳梗塞病型のうち原因が不明の脳梗塞(cryptogenic stroke)患者を対象に、embolic stroke of undetermined sources(ESUS)分類を用いて潜在性塞栓源を特定した。いずれの潜在性原因も有しない患者を対象として脳卒中再発リスクに及ぼす抗血栓薬の影響を検討した結果、抗血小板薬に比べ抗凝固薬は有意に全脳卒中および脳梗塞再発リスクを低下させた。この傾向は、多変量調整、競合リスクモデル、傾向スコアマッチングを用いても同様な結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
福岡県内の参加7施設(九州大学病院、福岡赤十字病院、九州医療センター、福岡東医療センター、聖マリア病院、製鉄記念八幡病院、九州労災病院)に発症7日以内に入院した脳卒中患者の前向き登録を継続して行った。2019年9月までに合計17,098人の急性期脳卒中患者から同意を取得し、前向き登録は終了した。発症7日以内の急性期脳卒中入院患者に対する同意取得率は89%であった。同意取得した患者に対する診療行為をDPCファイルから電子的に抽出する体制を構築した。また、退院時にEQ-5D-5Lを用いて生活の質(Quality of Life:QOL)の調査を行った。現在は同意取得患者に対して、発症3か月後、6か月後、1年後、以降は1年毎に、機能予後、疾病発症などの健康状態の調査を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
前向き登録患者を対象に、脳卒中発症後の長期の機能予後、生命予後を継続的に調査する。発症3か月後、6か月後、1年後、以降は1年毎に、modified Rankin Scaleスコア(mRS)を用いた日常生活動作、疾病発生、死亡の有無について調査を行う。これらの調査によって、脳卒中患者の生涯にわたる日常生活動作、生活の質の変化を明らかにする。 生活の質(Quality of life:QOL)は退院時にEQ-5D-5Lを用いて評価する。退院時のQOLとmRSの関係性を検討することで、mRSと患者背景からQOLを推定する予測式を作成する。長期予後調査におけるmRSよりQOLを推定し、年齢の重み付け(一定またはage-weighting function)、障害の重み付け、時間依存性の変化を勘案し、Quality-adjusted Life Year(QALY)、Disability-adjusted Life Year(DALY)を推定する。 また、全診療行為をDPCのEFファイルより診療行為情報を用いて抽出する。短期の機能予後、生命予後のみならず、長期のQALY、DALYに対して、患者状態、診療行為がどのような影響を及ぼしているかを検討する。脳卒中急性期医療が短期、長期の生命予後、機能予後、生活の質に及ぼす影響を、ストラクチャー、プロセス、アウトカムの観点から明らかにする。これらの検討を通して、脳卒中による疾病負荷を明らかにするとともに、急性期医療の質改善を目指す。
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