研究課題/領域番号 |
17H04147
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
秋 利彦 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (60304474)
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研究分担者 |
鵜沼 香奈 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (30586425)
船越 丈司 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (40444715)
則竹 香菜子 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特任助教 (40758067)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 一酸化炭素 / フィブロネクチン / p62 |
研究実績の概要 |
本年度は当課題の計画初年度に当たり、一酸化炭素発生剤CORM-3を用いて細胞毒性について検討した。マウス胎児線維芽細胞に高濃度(1mM)のCORM-3を曝露すると48-72時間後にアポトーシスによる細胞死に至ることが判明した。この過程における細胞内外のタンパク質の変動を調べたところ、分子量250kDa前後のタンパク質に大きな変動を認め、MALDI-TOF-MS解析に供したところフィブロネクチンと同定された。CORM-3によりフィブロネクチンが分子間で架橋され高分子化し、線維芽細胞との結合能を喪失していることがわかった。フィブロネクチン不含培地ではCORM-3の細胞毒性が軽減したことから、高分子化したフィブロネクチンは細胞との結合能失うのみならず、積極的に細胞死誘導に関与しているものと考えられた。更に、オートファジーに関与するアダプタータンパク質であるp62もフィブロネクチン同様にCORM-3により高分子化することがわかった。RNA干渉を用いてp62の発現量を低下させると細胞死も抑制されたことから、フィブロネクチン同様にp62の高分子化も細胞毒性に関与していることがわかった。次に敗血症モデルラットへの一酸化炭素発生剤CORM-3の投与効果を調べたところ、30mg/kgでの腹腔内投与では敗血症に伴う種々の病態を軽減することがわかった。心機能の低下、肺・心における炎症などが抑制された。一酸化炭素発生剤CORM-3の臓器・動物毒性を検討するためには30mg/kg以上の投与量が必要と思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
一酸化炭素発生剤CORM-3による細胞障害の際に細胞外のタンパク質であるフィブロネクチン、細胞内のタンパク質であるp62が高分子化することを発見した。これらは電気泳動とウエスタン分析を用いて容易に検出可能で、マーカータンパク質として有用である。課題初年度で細胞内外で一つづつマーカータンパク質候補を同定できたことから、計画は順調に進行していると考える。これらの高分子化分子種はメルカプトエタノールなどの還元剤にも耐性で、また強力な変性剤によっても単量体化しないことも判明した。すなわち、極めて安定な分子種でありこの点でもマーカータンパク質としての要件を満たしている。一酸化炭素発生剤の毒性発現機序に関しても順調に研究は進展している。すでに、種々の遺伝子欠損株が入手可能であるというマウス胎児線維芽細胞の利点を生かし、オートファジー遂行の必須分子であるAtg5欠損株と野生株の比較検討を進めているが、Atg5欠損株は野生株よりCORM-3による細胞死の進行が早いことから、オートファジーが一酸化炭素毒性に抗して細胞ホメオスタシスを維持する役割を果たしていることが判明している。具体的なオートファジーの役割も判明した。すなわち、高分子化したp62は野生株よりAtg5欠損株において顕著に蓄積しており、高分子化p62の除去にオートファジーが関与していることがわかった。また、単離精製したp62とCORM-3を試験管内で反応させても高分子化p62が生成することも確認した。以上からp62はCORM-3の直接の標的であることになる。これらの結果から、計画は予想以上に順調に進行していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後もマウス胎児線維芽細胞を中心とした培養細胞による毒性発現機序の更なる研究を進める一方で、動物個体を用いた一酸化炭素の毒性機構にも研究対象を広げて行く。一酸化炭素発生剤CORM-3は金属錯体であり、中心のルテニウムにカルボキシル基が配位する構造となっている。一方CORM-A1は非金属の一酸化炭素発生剤である。高分子化p62はCORM-3とCORM-A1の両方で生成が確認されたが、高分子化フィブロネクチンはCORM-3でのみ生成が確認されたことから遷移元素であるルテニウムの関与が考えられる。それらの事実を踏まえ、今後は主にCORM-A1を一酸化炭素発生剤として用いる。マウス胎児線維芽細胞の利点として、オートファジー欠損株(Atg5欠損株)の次はアポトーシス欠損株(bax/bak二重欠損株)を用いて更に研究を進める。動物実験はもっぱら生体保護作用のみが観察された30mg/kgの倍量の60mg/kgを腹腔内投与し、心・肺・腎・肝・脳などの主要臓器を摘出し、タンパク質変動・遺伝子発現変動をそれぞれMALDI-TOF-MS解析・マイクロアレイ解析に供して新たなマーカータンパク質・遺伝子を検索する。特にMALDI-TOF-MS解析の有用性は計画初年度に図でに証明されている。その結果に合わせて、適切な細胞株、すなわち心・肺・腎・肝・脳由来の培養細胞を選択し、毒性機序の詳細を検討する。また、一酸化炭素の主要な細胞内標的であるミトコンドリアを欠損した細胞の作成は計画第2年度である本年から開始する。
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