研究課題
当初より計画されていたレトロトランスポゾン・ディスプレイ法と次世代シーケンサMiSeqとを併用して、in vitroでの分散型反復配列のAlu配列挿入箇所の検出は、植物などのゲノムに比して、ヒトゲノムが大きいため、ゲノムDNAをgTUBEなどで機械的に効率よく断片化することが非常に難しいことが判明した。また、in silicoでのAlu配列挿入箇所を日本人(約400名)と韓国人(約90名)で比較したところ、両集団間で挿入箇所が異なり、比較的新しい挿入Alu配列のタイプであるAlu-Yタイプがあまり多くないことが分かった。一方、縦列型反復配列であるSTRsについては、今までの研究で蓄積されていた、日本人と漢民族(各32名)における約250座位のSTRsのgenotypesデータの正確性について再確認した後、それらの精度の高いデータを利用して、個人間及び集団間で識別するために必要な座位数を検討したところ、22対あるヒト常染色体の短腕・長腕に一つずつ、個人間でも両集団間でも識別力のあるSTRs座位を選択すれば、各座位の連鎖を考えることもなく、統計学的にも識別可能である結果が得られた。また、国立遺伝学研究所のスーパーコンピュータの利用登録を行い、DDBJに含まれる1000人ゲノムプロジェクトの26ヒト集団、約2500人以上の全ゲノム塩基配列データから、縦列反復配列データを抽出できるGangSTRやLobSTRなどのソフトウエアを利用して、日本人で識別力の高い4塩基リピートの218座位のSTRsのgenotyepes抽出を試みた。データ量の点から、一度に10人ずつ、218座位のリピート配列を抽出したところ、約60座位でほぼ正確と考えられる塩基配列から得られるリピート数を推定することが可能であった。現在のところ、日本人20名及びヨーロッパ人10名から同様の結果が得られている。
3: やや遅れている
令和2年度以降も、全ゲノム塩基配列解析のコンピュータを駆使した急速な発展に伴い、機能的な遺伝子のみならず、今までジャンクな領域と考えられ、あまり注目されていなかった縦列型及び分散型の反復配列についても、精度良く検出できるソフトウエアも開発されるようにようになってきた。そのため、研究協力体制や方法論を大幅に変更せざるを得なかったことが多く、またそのコンピュータデータの評価のためにも非常に時間を要することが多かった。従って、生命倫理審査委員会への申請が遅れているため、一見して非常に遅れているように感じられる。しかしながら、既存の日本人と漢民族における約250座位のSTRsデータを利用して検討したところ、22対あるヒト常染色体の短腕・長腕に一つずつ、個人間でも両集団間でも識別力のあるSTRs座位を選択すれば、各座位の連鎖を考えることもなく、統計学的にも識別可能である結果が得られたことは、研究の一つの進歩である。また、当初より計画されていたレトロトランスポゾン・ディスプレイ法ではなく、in silicoでの分散型反復配列のAlu配列挿入箇所を日本人と韓国人で比較したところ、集団間で異なる比較的新しい挿入箇所はあまり多くないことが分かったことも一つの進歩であった。さらに、約1000人の全ゲノム塩基配列データベースをもつ研究機関とも、多型的STRマーカーの選出及びマルチプレックス判定法の開発という点で、協力を続けており、今後も連携して行えば、当研究室で独自に研究を信仰できる可能性が高くなった。
今年度は、繰り越し申請した最終年度であるので、昨年度後半から行ってきた、1000人ゲノム・プロジェクトのデータベースにある26集団2500人以上の全ゲノムゲノム塩基配列のデータを用いて、日本人で識別力の高い218座位の4塩基リピートのSTRsをGangSTRなどのソフトウエアを用いて、各個人のin silicoでのGenotypingを行う。その後、各ヒト集団間での統計学的有意差を検討し、特に日本人と近隣の韓族で有意差の大きい約50座位を選定し、2つのマルチプレックスシステムの構築を図る。この段階で、実際にDNA試料を使用して研究を行うため、研究方法の変更などで申請が遅れていた、名古屋大学医学部生命倫理審査委員会での承認を得る。2つのシステムを構築後、日本人のDNA試料については、既に法医・生命倫理学研究室で保有している非連結匿名化試料のうち質の高いDNA試料を100検体選択する。韓国人(韓族)のDNA試料については、研究協力者のソウル国立大学に依頼して、ソウル在住の韓族の血液から抽出されたDNA試料約100検体の提供を受ける。分散型反復配列であるAlu配列に関しては、昨年度までの研究の結果から、レトロトランスポゾン・ディスプレイ法とNGSを併用した、ゲノム上でのAlu配列の挿入部位を決定する方法は、1年間では事実上難しいと判断されるので、分散型の実用化は断念する。最終年度は、STRsによるマルチプレックス構築の開発に集中し、日本人及び韓国人の各100名のSTRs型判定結果から、集団遺伝学的解析を行い、両集団間を識別できるような統計学的判別法の検討を行う。その上で、判別法が確定した段階で、1000人ゲノムプロジェクトから抽出された様々なヒト集団における約50座位のgenotypesデータ、並びに研究室に保存されている数種のヒト集団の試料を用いて識別能についても検討する。
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