研究実績の概要 |
ヒト肝細胞癌の大部分は肝硬変を背景に発生することを特徴としている。このため、肝硬変の構成単位である再生結節が肝癌の発生母地である可能性が高いと推察されるが、その潜在的な発癌ポテンシャルについては不明なままであった。本研究は、肝硬変の再生結節に潜在する遺伝子異常を統合的に理解し、肝発癌の分子基盤を明らかにすることを目的とし、さまざまな原因で病態形成された肝硬変組織を用い、硬変肝からの再生結節のサンプリングを行い、次世代シークエンサーを用いて全エクソン解析、ならびに代表的な30肝癌関連遺伝子を対象としたtargeted deep sequencing解析を行った。興味深いことに、病因にかかわらず肝硬変組織の多くの再生結節は、細胞機能には影響しない変異を一定の細胞集団頻度で含有しており、再生結節が変異を有するクローナルな肝細胞集団により構成されていることが明らかとなった。加えて、164サンプル中37サンプル(22.6%)の肝硬変の再生結節組織では,TP53,ARID1Aを含む合計41個の肝発癌関連遺伝子の変異が生じており、pathway解析からは,クロマチンリモデリングや,βカテニン経路,酸化ストレス経路など、さまざまな発癌関連シグナル伝達経路の異常が潜在していることが確認された。以上の結果から、潜在的に遺伝子異常を蓄積した クローナルな肝細胞集団である再生結節の構成細胞に、発癌関連遺伝子への遺伝子変異が加わることが肝癌細胞の出現につながっているものと考えられた。本研究成果の発表後に続いて、Nature誌(Nature, 2019, 574,538-542)、Cell誌(Cell, 2019, 177, 1-14)に海外からの同様の報告がされており、肝癌の発生母地としての肝硬変/再生結節の果たす役割の全貌が解明されつつある。
|