研究課題
本研究では、運動により発現制御される骨格筋由来分泌蛋白「マイオカイン」であるマイオネクチンに着目し、マイオネクチンによる心血管系制御機構を個体レベルで明らかにし、その分子機構を細胞レベルで解明すること目的としている。現時点で以下のような実験の結果を得ている。1.常法によりマイオネクチン欠損マウスを作成し、生理的条件における心血管系や代謝系に関する表現型を検討した。生理的条件下では、マイオネクチン欠損マウスは対照マウスと比べ、体重、収縮期血圧、心拍数、骨格筋重量、心筋組織重量、肺組織重量、脂肪組織重量、心エコーで評価した心機能などに有意な差を認めなかった。2.マイオネクチンの虚血性心疾患における役割を解明するために、マイオネクチン欠損マウスと対照マウスに対して心筋虚血再灌流モデルを作成した。マイオネクチン欠損マウスは対照マウスと比べて心筋虚血再灌流後の心筋梗塞巣が有意に増大しており、虚血心筋における心筋細胞のアポトーシス増加と炎症性サイトカイン(TNF, IL-6, MCP-1など)の発現増加を伴っていた。また、マイオネクチン欠損マウスは対照マウスと比べて心筋虚血再灌流後の心機能の低下が著明であった。以上より、マイオネクチンは心筋虚血再灌流障害に保護的に作用すると考えられた。3.マイオネクチンのアポトーシスに対する作用を培養心筋細胞を用いて検討したところ、リコンビナントマイオネクチン蛋白を心筋細胞に添加すると低酸素再酸素化状態でのアポトーシスは有意に抑制された。4.マイオネクチンの炎症反応に対する作用を培養マクロファージを用いて検討したところ、マイオネクチン蛋白を前処理するとLPS添加による炎症性サイトカインの発現増加は濃度依存的に抑制された。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、マイオネクチン欠損マウスの作成に成功しており、生理的条件下においては心血管系に関する表現型を認めないことが明らかとなった。そして、マイオネクチン欠損マウスを用いたマウス心筋虚血再灌流モデルにおいては、内因性マイオネクチンは抗アポトーシス作用と抗炎症作用を有し、急性心筋障害に対して防御的に働くと示唆された。また、培養細胞を用いた検討では、マイオネクチンは心筋細胞のアポトーシスとマクロファージでの炎症反応を抑制するという結果が得られている。従って、マイオネクチンの心血管疾患における役割は細胞レベルと個体レベルで明らかになりつつある。これらの達成度は当初の研究計画の予定を考えると順調であると考えられる。
心血管疾患におけるマイオネクチンの役割を明らかにするため、前年度までの研究成果を踏まえて、以下の解析を行う。1.前年度までに、マイオネクチン欠損マウスは生理的条件下では心血管系に表現型を認めず、心筋虚血再灌流モデルを作成すると対照マウスに比して心筋虚血再灌流障害が悪化していることが明らかになった。今後は、遺伝子欠損系と遺伝子過剰発現系を用いて、心筋虚血モデルの作成を継続し、マウスレベルでのマイオネクチンによる心筋保護作用の作用機序とそのシグナル伝達機構を解明する。2.前年度までに、マイオネクチンは培養心筋細胞に対して抗アポトーシス作用とマクロファージに対して抗炎症作用を有することが明らかになった。今後は、培養細胞系を用いて、マイオネクチンの更なる機能解析とシグナル伝達機序を解明する。
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