研究課題
本年度は細胞周期の制御法について、下記の研究を行なった。作製したFucci発現細胞周期レポーターiPS細胞株から誘導した心筋細胞を用いたスクリーニングにより同定された化合物についてさらに条件の最適化を行い、もっとも効果が大きく見られる条件を同定した。また最適化した条件においてはDNAの合成を検出するEduアッセイなどにおいてもコントロールと比べて上昇が認められ、また細胞数も増加していることが確認された。また同定した細胞周期活性化化合物CCA1で処理したルシフェラーゼ発現iPS細胞由来心筋細胞を左冠動脈前下行枝の結紮により心筋梗塞を作製した免疫不全マウス(NRGマウス)に移植を行いin vivo光イメージング法により移植後の心筋細胞の生着効率について評価を行ったところ、コントロール群と比べて有意な移植した心筋細胞の生着効率の改善が認められた。現在これらのマウスから移植心臓組織を採取し免疫組織染色などを用いて移植後の心筋細胞の状態について解析を進めている。心筋細胞分化誘導の初期の未熟な心筋細胞と後期の成熟した心筋細胞においては細胞周期活性が変化しており、時間経過とともに不活性化している。そのためそれぞれの時期における心筋細胞を取得しRNA-seqによる網羅的遺伝子解析を行った。また並行してFucciレポーター株を用いてそれぞれの細胞周期の心筋細胞をソーティングで集めて網羅的遺伝子発現解析を行った。これらの解析から変動する遺伝子の抽出を行い、パスウェイ解析等の解析を進めた。さらに、マーカーとなるような特異的発現をする遺伝子の探索を行っている。
2: おおむね順調に進展している
当該年度はin vitroでの解析に加えて免疫不全マウスにおける細胞移植モデルでの解析も進めた。細胞周期を活性化する化合物の処理によりグラフト生着効率が改善することが確認された。この結果は多能性幹細胞由来心筋細胞を用いた細胞移植治療における心筋再建効果を改善するために有用な所見と考えられた。今後、さらにグラフト組織における心筋細胞の状態について評価を進める必要がある。心筋細胞における細胞周期制御のメカニズム解析については未だ明らかになっていない点も多い。心筋細胞の分化成熟過程や細胞周期活性化化合物の投与により細胞周期活性が変動していく過程を、網羅的遺伝子発現解析などを用いて解析することにより、そのメカニズムの解明を目指しさらに検討を進める予定である。
概ね順調に進んでいるため、研究計画を継続する。免疫不全マウスを用いた心筋梗塞モデルへのiPS細胞由来心筋細胞移植において、細胞周期を活性化する化合物の処理を行った心筋細胞において良好な細胞移植における生着効率を示したが、生着した心筋細胞グラフトの組織学的な評価、さらに移植心筋細胞の特性評価を行う。また、細胞周期を制御する因子の同定のために、網羅的遺伝子発現解析データを引き続き取得する。サンプルについてはこれまでに取得した心筋細胞の分化誘導後の各時点での細胞サンプルに加えて、様々な培養条件で誘導した心筋細胞などのサンプルからRNAを回収しRNA-seqによる網羅的遺伝子発現解析を行い、パスウェイ解析やネットワーク解析などの手法を用いることにより心筋細胞の細胞周期制御に関与する因子の同定、特異的マーカーの探索を行う。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 12件、 招待講演 11件)
Physiological Reviews
巻: 99(1) ページ: 79-114
10.1152/physrev.00039.2017.
Stem Cells International
巻: 2019 ページ: 7532657
10.1155/2019/7532657.
Methods in Molecular Biology
巻: 1816 ページ: 79-92
10.1007/978-1-4939-8597-5_6.
Heart rhythm .
巻: 15 (10) ページ: 1566-1574
10.1016/j.hrthm.2018.05.028.
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 505(4) ページ: 1251-1256
10.1016/j.bbrc.2018.10.020.