研究課題
本研究の目的は、COPDの肺組織傷害に対する防御分子、修復因子について解明し、創薬に繋がる基礎研究を為すことである。本研究では、1. 新規還元分子である活性硫黄分子種(reactive sulfur species: RSS)、2.抗老化液性因子Growth differentiation factor 11 (GDF11)、3.組織修復をもたらす新規転写因子LHX9に着目し、COPDの病態に対する役割について解明すること、を目的とする。本研究を遂行するにあたり、現在までの、研究実績について以下に示す。1.新規還元分子であるRSSのCOPD病態における役割の解明肺は酸化ストレスを強く受ける臓器であり外因性および内因性の酸化ストレスから肺細胞を保護するために種々の抗酸化分子が機能している。我々は、新規の内因性抗酸化分子であるRSSに着目し、COPD患者の気道、肺細胞におけるその産生量と様式について明らかにすることを目的とした。さらにCOPDの病態におけるRSSの役割をin vivo, in vitroモデルを用いて解明する。2.抗老化液性因子GDF11のCOPD病態における役割の解明GDF11は血漿中に存在する抗老化因子として近年着目されている分子である。GDF11のCOPDにおける発現について血漿および肺組織における発現様式について明らかにする。さらにGDF11を投与することで病態が改善するかについて動物モデルを用いて検証する。3.細胞特異的な網羅的解析により抽出した新規転写因子LHX9 のCOPD病態における役割の解明LHX9はCOPD由来のII型肺胞上皮細胞における網羅的遺伝子解析で発現が増加していることが明らかになった転写因子である。一方でその機能については不明である。本研究ではCOPD肺細胞におけるLHX9の発現とその役割を解明する。
2: おおむね順調に進展している
各研究項目ごとに見てみると、RSSの産生量と様式についてはCOPD患者由来の気道被覆液と肺構築細胞では健常人と比較して低値であることが明らかになった。RSSの中でも、glutathione persulfide(GSSH), glutathione trisulfide (GSSSH), cysteine persulfide (CysSSH)の産生が低下していた。これらのRSSは対応するglutathione (GSH)やcysteine (CysSH)に比較して10-100倍の高い抗酸化能を有することから、COPDにおける産生量の低下はCOPDで見られる過剰な酸化ストレスに関係している可能性がある。これらの結果は、Thorax誌に掲載された(Numakura T et al, Thorax 2017; 72: 1074-1083.)。次にCOPD病態におけるGDF11の役割の研究では、血漿中のGDF11量はCOPD患者では、健常人に比較して有意に低値であることが明らかになった。さらにCOPD患者の肺組織や肺細胞では、その発現が低下することが明らかになった。また、GDF11を投与することで肺細胞の老化が抑制されることを解明し、その結果、肺線維芽細胞の組織修復能が改善することも明らかにした。これらの結果は、Thorax誌に掲載された(Onodera K et al, Thorax 2017; 72: 893-904.)。LHX9に関する研究では、マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析の結果をq-PCRで確認したところCOPD患者のII型肺胞上皮細胞において発現が上昇していた。今後その機能を検証する予定である。以上より、RSSとGDF11の研究は当初の計画より順調に進んでおり、LHX9に関してはやや遅れているものの、研究全体としては概ね順調に推移していると判断する。
RSSに関する研究では、現在、COPD病態における役割を明らかにするために、crisper cas9法を用いて産生酵素遺伝子欠損マウスを作成している。現在、バッククロスが進み、まもなく実験に供することが可能になる段階にきている。今後は、エラスターゼ投与による肺気腫マウスやタバコ煙曝露によるCOPD類似マウスを用いてRSSの病態における役割を明らかにしていく予定である。GDF11の研究では、現在、肺気腫モデルを用いてGDF11を投与した際の病理学的変化および呼吸生理学的変化の検討を行っている。さらに肺組織において老化が抑制されるか、またその分子機序について検討を行っているところである。LHX9の研究では、in vitroの系を用いてLHX9の遺伝子発現を調節した際に出現する病態を炎症や組織修復、成長因子などの観点から解明する予定である。さらにCOPD患者および健常者からより多くのII型肺胞上皮細胞を収集し、実験に供する予定である。今後は、得られた肺胞上皮細胞とその臨床背景(呼吸機能およびその経年低下、増悪歴、下気道感染の有無など)との関連を検討していく予定である。
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