研究課題
1)新規還元分子であるRSSのCOPD病態における役割の解明については、RSSに関する研究ではCOPD患者の肺細胞、気道被覆液では健常人に比較して有意に低下していることを英文誌に発表した(Numakura T, et al. Thorax 2017)。またRSSの生体内の主たる産生酵素を同定し、遺伝子欠損マウスを作成した。肺気腫モデルを用いた検討では、産生酵素遺伝子欠損マウスにおいて肺気腫が悪化することを確認した。2) 抗老化液性因子GDF11のCOPD病態における役割の解明については、血漿中ならびに肺組織中のGDF11は、COPD患者では健常者と比較して有意に低下していることを確認し英文誌に発表した(Onodera K, et al. Thorax 2017)。また外因性に投与したGDF11は肺気腫モデルにおいて細胞老化を抑制し、気腫化を抑制することを確認した。さらに血漿中GDF11濃度と全身性炎症に関連する炎症性サイトカインおよびケモカインの産生量と有意に相関することを明らかにした。同時に、GDF11濃度は身体活動性の程度と有意に相関することも明らかにし、以上の結果を英文誌に報告した(Tanaka R, et al. Int J COPD 2018)。3) 細胞特異的な網羅的解析により抽出した新規転写因子LHX9 のCOPD病態における役割の解明については、マイクロアレイによる網羅的遺伝子解析の結果をq-PCRで確認したところCOPD患者のII型肺胞上皮細胞において発現が上昇していた。またタバコ煙曝露によってLHX9の発現が増強することをin vitroの系を用いて確認した。現在、LHX9の細胞機能を検討している。
2: おおむね順調に進展している
各研究項目ごとに見てみると、RSSに関する研究では当初の目標であるCOPD患者の肺細胞、気道被覆液では健常人に比較して有意に低下していることを明らかにし、さらにRSSの生体内の主たる産生酵素を同定し、遺伝子欠損マウスを作成することに成功した。そのうえ、肺気腫モデルを用いた検討では、産生酵素遺伝子欠損マウスにおいて肺気腫が悪化することを確認した。以上よりRSSの研究では3年目に行うべき研究内容を前倒しして行っている。GDF11に関する研究では、血漿中ならびに肺組織中のGDF11は、COPD患者では健常者と比較して有意に低下していることを英文誌に発表し、血漿中GDF11濃度と全身性炎症に関連する炎症性サイトカインおよびケモカインの産生量と有意に相関することを明らかにし英文誌に報告した。3年間でなすべき研究内容をすでに終了し、現在はCOPDコホートを用いたGDF11および身体活動性の経年変化の研究を行っていることから予想以上に進展している。LHX9に関する研究は、タバコ煙曝露によってLHX9の発現が増強することをin vitroの系を用いて確認した。以上より、RSSとGDF11の研究は当初の計画より順調に進んでおり、LHX9に関しては計画通り進んでいることから研究全体としては概ね順調に推移していると判断する。
RSSに関する研究では、RSS産生酵素遺伝子欠損マウスを用いて肺気腫モデルを作成し、肺の炎症や酸化ストレスに及ぼす影響について現在解析している。さらにRSS供与体を用いて肺の炎症や気腫性変化が改善するかについても明らかにしていく。GDF11の研究では、COPD患者コホートを用いてGDF11の経年変化と呼吸機能ならびに増悪などの臨床指標との関係を明らかにするために前向き研究を開始した。さらに身体活動性の経年変化とGDF11の関係についても上述したCOPDコホートを用いて解明していく予定である。LHX9の研究では、引き続きin vitroの系を用いてLHX9の遺伝子発現を調節した際に出現する病態を炎症や組織修復、成長因子などの観点から解明する予定である。また肺細胞の老化との関連についても明らかにしていく予定である。さらにCOPD患者および健常者からより多くのII型肺胞上皮細胞を収集し、実験に供する予定である。今後は、得られた肺胞上皮細胞とその臨床背景(呼吸機能およびその経年低下、増悪歴、下気道感染の有無など)との関連を検討していく予定である。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 6件、 招待講演 2件)
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