研究課題/領域番号 |
17H04181
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
巽 浩一郎 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (10207061)
|
研究分担者 |
西村 倫太郎 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (00756091)
坂尾 誠一郎 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (80431740)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 肺血管内皮細胞 / ARDS / LPS肺障害 / DPP4阻害薬 / 肺微小血管内皮細胞 |
研究実績の概要 |
ARDSは急性呼吸不全を呈する臨床的概念であり、異常な炎症を伴っている。肺血管内皮細胞(PVECs)の機能はARDSにおいては重要なpro-inflammatoryサイトカインなどの放出源となっており、PVECsレベルでの炎症機転の改善は一つの有力な治療戦略となりうる。Dipeptidyl peptidase (DPP)4阻害薬は糖尿病治療薬として広く使用されており、抗炎症効果を有しているとされている。しかし、DPP4阻害薬がPVECs機能さらにはARDSに対する抗炎症効果をもたらすかどうかは明らかでない。そこでマウスにおけるLPS誘導性肺損傷、またin vitroにおいてはヒトPVECsを使用して、臨床で広く使用されているDPP4阻害薬であるsitagliptinの効果を検討した。In vivoのLPS肺障害モデルにおいて、sitagliptinは血清DPP4活性、気管支肺胞洗浄のタンパクレベル・細胞数・pro-inflammatoryサイトカインレベルを低下させ、肺障害の病理学的所見を改善させた。LPSはマウス肺から分離した肺上皮細胞およびPVECsにおけるCD26/DPP4の発現比率を低下させ、この発現比率の減少はsitagliptin投与により改善が得られた。In vitroでは、ヒト肺微小血管内皮細胞(HLMVECs)は、ヒト肺動脈PVECsよりもCD26/DPP4の発現レベルは高値であった。LPSはHLMVECsからのTNFα、IL-6、IL-8の放出を促進したが、sitagliptin投与により改善が得られた。LPSはHLMVECsの増殖を促進したが、sitagliptin投与はそれを抑制した。しかしsitagliptin投与はin vitroの培養PVECsおよび肺上皮細胞におけるLPS誘導性血管透過性は抑制しなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下記論文を本研究課題に関係する業績として公表し、研究はおおむね順調に進展していると判断している。1. Vildagliptin ameliorates pulmonary fibrosis in lipopolysaccharide-induced lung injury by inhibiting endothelial-to-mesenchymal transition. Respir Res. 2017; 18: 177. 2. Endothelial cell-related autophagic pathways in Sugen/hypoxia-exposed pulmonary arterial hypertensive rats. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2017; 313: L899-L915. 3. Isolation and characterization endothelial-to-mesenchymal transition-cells in pulmonary arterial hypertension. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2018; 314: L118-L126. 4. DPP4 inhibitation by sitagliptin attenuates LPS-indiced lung injury in mice. Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2018; 315: L834-845.
|
今後の研究の推進方策 |
肺線維症およびCOPDマウスモデルにおいて、肺血管内皮細胞由来の間葉系幹細胞MSCの動態、また免疫担当細胞がMSCに及ぼす影響に関して検討する。免疫細胞の中で特にマクロファージの肺疾患病態形成に対する関与を検討する。マクロファージには、肺組織在住の細胞(tissue-resident macrophage)と骨髄由来の細胞(monocyte-derived macrophage)がある。マウス骨髄細胞からマクロファージの分化培養を試みる。CD11bに90% positiveかつF4/80に30% positiveの細胞群が得られている。これら骨髄由来培養monocyte-derived macrophageはphagocytosisや抗線維化物質の分泌作用があり、線維化の抑制効果がある可能性がある。このmonocyte-derived macrophageは、EndMTを起こしたMSC細胞を抑制することにより線維化の抑制を起こしている可能性がある。骨髄由来培養monocyte-derived macrophageは、通常のM-CSF、GM-CSFさらには他のサイトカイン刺激(例えばIL-33で刺激を受けた細胞はMMP-9の放出により肺線維化の抑制に寄与)によりその機能は影響を受けると考えられる。生体ではこれら骨髄由来細胞が肺に到達した時、tissue-resident macrophageと作用が拮抗している可能性が考えられる。このようなmonocyte・マクロファージ系細胞動態は、EndMTを起こしたMSC細胞の機能に影響を及ぼしており、最終的には肺線維症病態形成に対して重要な役割を担っていると想定される。マクロファージRNAの遺伝子発現解析により、そのサブグループ解析を行う。
|