研究課題/領域番号 |
17H04193
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩坪 威 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (50223409)
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研究分担者 |
山田 薫 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (00735152)
若林 朋子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (20530330)
橋本 唯史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (30334337)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / Aβ / タウ |
研究実績の概要 |
本研究では脳内Abetaエコノミーの破綻により、Abetaが凝集性を獲得し、下流でタウが病原性を獲得し、神経細胞障害性を引き起こす分子基盤の解明を行なっている。 脳内Abetaエコノミーに関わる分子基盤の検討。脳内Abetaエコノミー評価のため、APPトランスジェニックマウス (APP tg)脳においてin vivo microdialysis実験を行い、脳間質液(ISF)中のAbeta濃度を測定した。まず脳内AbetaエコノミーにapoEが関与するか検討するためapoEを欠損したAPP tg脳海馬のISFを3ヶ月齢において解析したところ、APP tgに比べ、Abeta濃度が約50%減少することが分かった。一方マウスapoEをヒトapoE2, E3, E4にノックインしたAPP tg脳海馬のISFを解析したところ、APP tgに比べ、Abeta濃度に変化は認められなかった。これらマウスを9ヶ月齢において免疫組織化学的に解析したところ、APP tgマウスに比べ、apoE欠損、あるいはapoE2, E3, E4ノックインAPP tgではいずれもアミロイド蓄積の著しい減少が認められた。これらの結果から、apoEはAbetaの脳内クリアランス、及び凝集性獲得に関わる可能性が考えられた。また、APP tgマウス脳TBS可溶画分をゲル濾過カラムで分離して解析したところ、200kDa以上、50-70kDa、10-20kDaの3種類のAbeta分子種が存在することが分かった。さらに、in vivo seeding実験により、Abeta蓄積誘引能を検討すると、200kDa以上の高分子量Abeta分子種がAbeta蓄積を誘引することを見出した。 Abetaの下流でタウが病原性を獲得する分子基盤の検討。タウ凝集性を誘導するため、予め凝集させたタウのリピート領域(RD)をタウtg脳に注入し、免疫組織化学的に検討したところ、タウRDはタウの過剰リン酸化を誘引することを明らかにした。また、アデノ随伴ウイルスを利用してタウRDを発現する実験系(AAV-RD)を作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は脳内Abetaエコノミーの分子基盤解明、タウの病原性獲得を促すAbeta分子種の同定、そしてタウがAbeta依存的に病原性を獲得する機序の解明を目指している。 まず脳内Abetaエコノミーの分子基盤解明のため、老人斑構成因子であり、またそのipsilon 4アレルがアルツハイマー病発症の危険因子でもあるapoEに注目して検討を行い、apoEの欠損によりISF中Abeta濃度が低下し、Abeta蓄積が減少することを見出した。これはapoEの存在が脳内Abetaエコノミーに重要な働きを担っていることを示唆している。またヒトapoE2、E3、E4ノックインマウスはISF中Abeta濃度が変化しないものの、Abeta蓄積が減少することを見出した。これらの結果は、ヒトapoEはマウスapoEと比べAbetaクリアランスに与える影響は同程度だが、Abeta凝集に抑制的に働き可能性を示唆している。これらの結果から当初の計画以上に進展していると考えられる。 次にタウの病原性獲得を促すAbeta分子種の同定のため、APP tg脳の可溶画分をゲル濾過カラムで分離し、分子量の異なる3種のAbeta分子種を同定し、中でも200 kDa以上の高分子量Abeta分子種がAbeta蓄積を誘引しうることを見出した。今後これらのAbeta分子種に焦点を当てさらに研究を推進するため、順調に進行していると考えられる。 さらにタウがAbeta依存的に病原性を獲得する機序解明のため、予め凝集させたタウRDの注入実験、あるいはAAV-RD実験系を樹立した。今後APP tg脳に予め凝集させたタウRDやAAV-RDの注入実験を行ない、Abeta依存的にタウが病原性を獲得するAbeta-タウカスケードモデルを作出するが、未だ完成に至っていないことから、やや遅れていると考えられる。 これらの結果を総合的に判断し、本研究はおおむね順調に進行していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
脳内Abetaエコノミーの分子基盤解明のため、apoEがどのような機序でAbetaの脳内エコノミーに関与するか、特に両者の相互作用モードについて明らかにする。またアルツハイマー病の危険因子であるapoE4がAbetaのオリゴマー形成・凝集・蓄積に与える影響を検討する。さらにapoE同様に老人斑構成因子であるCLAC について、Abetaの脳内クリアランス及び凝集・蓄積にどのような影響を与えるか、in vivo microdialysis法、生化学的、免疫組織化学的解析に検討する。 タウの病原性獲得を促すAbeta分子種の解明のため、初年度Abeta蓄積誘引能があることを明らかにした高分子量Abeta分子種に注目し、この分子種が下流でタウの過剰リン酸化を引き起こしうるか明らかにする。さらに高分子量Abeta分子種の性質について詳細に検討し、Abeta蓄積を誘引するその分子機序について明らかにする。 タウがAbeta依存的に病原性を獲得する機序解明のため、APP tgに凝集タウRD注入実験、及びタウRD発現実験を行い、Abeta依存的にタウの過剰リン酸化を生じるAbeta-タウカスケードモデルを作出する。そして、すでに明らかにした高分子量Abeta分子種の注入実験を行い、高分子量Abeta分子種がタウ病原性獲得を誘引するか検討する。またヒト神経芽細胞ReN細胞を用いた3次元培養系を用いて、高分子量Abeta分子種がAbeta蓄積、タウ病原性獲得を誘引するAbeta-タウカスケード細胞モデルを作出する。これらの実験系が樹立されたら、その分子機序について生化学的、遺伝学的に検討を行う。
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