研究課題/領域番号 |
17H04198
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
保住 功 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (20242430)
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研究分担者 |
林 祐一 岐阜大学, 医学部附属病院, 講師 (00392366)
栗田 尚佳 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (00746315)
大沢 匡毅 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (10344029)
田中 真生 国際医療福祉大学, 医学部, 講師 (30774252)
位田 雅俊 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (70512424)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳内石灰化 / 無機リン酸 (Pi) / リン酸トランスポーター / 特発性基底核石灰化症(IBGC) / 原発性家族性脳石灰化症(PFBC) |
研究実績の概要 |
脳内の石灰化は特発性基底核石灰化症 (idiopathic basal ganglia calcification (IBGC))、副甲状腺機能低下症、ミトコンドリア脳筋症(特にMELAS)を始め、小児ではコケイン症候群、アイカルディ・ゴーティエ症候群などの代謝異常、様々な疾患でみられる一つの病態である。脳内石灰化におけるcalcification(石灰化)、正確にはmineralization(鉱物化)の基本的病態を解明し、石灰化症に対する治療法を見出すことが本研究の目的である。我々の研究のきかっけとして、IBGC患者髄液の無機リン(Pi)濃度が高値であること見出した。さらには、ミトコンドリア脳筋症、さらには筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病(AD)などで脳内に石灰化のある患者の髄液中のPi濃度が高い傾向にあることを見出している。この髄液中の高Pi状態が、glymphatic systemと呼ばれている、いわゆる脳内のリンパ系を伝わって、毛細血管周囲腔、小動脈平滑筋に、カルシウム(Ca)を始めとする重金属と錯体を形成して沈着していく病態機序、概念を提唱した。一方、腎不全できたす続発性副甲状腺機能亢進症では高Pi血症が認められ、生命予後と相関するのみならず、血管中膜平滑筋細胞のCaの沈着、骨芽細胞への細胞分化が観察されている。すなわち、腎不全よる高Pi血症とIBGCにおける髄液・細胞間質中の高Piの流れは対称的であるが、一方、血管中膜平滑筋細胞の周囲の高Pi状態は共通した最終像である。本年度の研究のターゲットとして、血管中膜平滑筋細胞の周囲の高Pi状態にける石灰化機序の抑制に抗酸化剤として12AC3Oを用いてその効果を検討した。石灰化機構の解明と治療薬の開発は血管中膜に石灰化をきたすメルケベルク型動脈硬化症の分子機構の解明と創薬研究の基盤にもなり得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、calcification(石灰化)、正確にはmeneralization(鉱物化)の発症機序の解明、その治療薬の開発のため、主に2つの局面から課題に取り組んだ。 1) 神経細胞におけるリン酸輸送体SLC20A2 発現調節機構の解明 初めにSLC20A2の機能解析を行うために、培養細胞におけるSLC20A2 の発現とその調節機構について検討を行った。本実験ではヒト神経芽細胞種SH-SY5Y細胞を用い、IBGC病態で想定される細胞内低Pi酸状態を再現するために低Pi酸負荷を行った。SLC20A2 の遺伝子発現量に変化は見られなかったが、血小板由来成長因子B (PDGF-B) の二量体であるPDGF-BBが細胞内へのリン酸輸送を促進することを明らかにした。また、このPDGF-BBの作用はSLC20A2 によってコードされるPiT-2には影響がなく、SLC20A1 によってコードされるPiT-1の細胞膜移行を促進させることを明らかにした。 2) 血管平滑筋細胞p53LMAco1を用いた高リン酸状態における石灰化発生機序の検討 マウス大動脈平滑筋細胞であるp53LMAco1細胞を高Pi酸条件下 (3.0mM Pi / 4日間) で培養し、石灰化評価法としてアリザリンレッドS染色とvon Kossa染色を用い、石灰化誘導モデルを確立した。高Pi負荷によって誘発される石灰化は活性酸素種(Reactive Oxygen Species (ROS))の発生を介して生じることが報告されており (Agharazii et al., 2015)、高Pi負荷によって生じる石灰化に対する抗酸化物質の影響を同方法で検討したところ種々の抗酸化剤において石灰化抑制効果がみられ、特に抗酸化剤として用いた低分子化合物12AC3Oが、高Pi負荷による血管平滑筋細胞に対する石灰化の著明な抑制効果を示した。本プロジェクトの研究成果として、現在、論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
脳内石灰化の分子機構の解明を原因遺伝子が明らかなSLC20A2-associated IBGC, PDGFB-associated IBGCの病態解明を軸に進めていく一方、一般的な脳内石灰化における共通した基礎的および臨床的な病態の解明と治療薬開発を行う。 (1) 脳内石灰症における基礎病態の解明:我々の初年度の検討から、脳内石灰化の基礎病態の一つには、細胞外のPiの上昇、細胞内Piの低下があることが推定された。2年目で、これらのSLC20A2、PDGFB変異患者iPS細胞を用いて、血管内皮細胞に分化させ、その機能異常を再現することができた。さらに、神経細胞やグリア細胞に分化させて、細胞内低リン状態の確認、比較を行う。 (2) 治療薬の開発:細胞内Piの低下によってミトコンドリアの機能異常が生じる。初年度に論文としたミトコンドリア異常を改善する5-aminolevulinic acid (5-ALA)、2年目に見出したタミバロテン、ラロキシフェン等の他にも細胞内へのPiの取り込みを改善する薬についても検討を行った。3年目には抗酸化剤、特に低分子化合物12AC3Oを用い、高リン酸負荷による血管平滑筋細胞に対する石灰化の著明な抑制効果を確認した。さらなる創薬のシーズを探っていく。 (3) 臨床病態の解明:初年度では、特発性基底核石灰化症の髄液のPi濃度が高値であることを論文として報告した。脳内石灰化をきたしている症例(ミトコンドリア脳筋症、さらにはALS、ADなどで脳内に石灰化を認める患者)の髄液中のPi濃度を測定し、髄液中のPi、さらには細胞内外のPiの役割、その詳細な調節機構について引き続き、明らかにしてゆく。
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