研究実績の概要 |
現在までに実施してきた、米国Memorial-Sloan Cancer Center, Duke大学、ドイツRegensburg大学と北海道大学の国際共同研究での同種造血幹細胞移植症例1362例から糞便合計8764検体を収集し、腸内細菌叢のメタゲノム解析を実施した。全施設において、人種を超えて、造血幹細胞移植後に腸内細菌叢の多様性が経時的に減少することが明らかになった。移植臨床データの解析によって、腸内細菌叢の多様性の減少が、造血幹細胞移植後の非再発死亡や急性GVHDのリスクであることも明確になった。また造血幹細胞移植前にすでに細菌叢多様性が減少していた例の予後は不良であった(Peled: NEJM 2020,382,822)。さらに腸内細菌叢の多様化の減少に伴い、全施設において、多様性減少に反比例する腸球菌の経時的増加がみられた。腸球菌の増加はGVHDと非再発死亡のリスクであった。腸球菌増加の機序として、腸内の乳糖分解酵素活性の低下による、腸球菌の増殖に必須な乳糖が分解されることなく、大腸に流入し、大腸でも腸球菌の増殖に関与している可能性が考えられた(Stein-Throeringer: Science 2019,366,1143)。一方、北大における動物実験においては、大腸のGoblet細胞がGVHDの標的であることが明らかになった。これにより、ムチン産生の低下からLypd8やdefensinなど内因性抗菌分子を保持する内側ムチン層が減少し、腸内細菌に対する防御機能が低下し、感染症の原因とGVHDの増悪の悪性サイクルの形成に関与することが明らかになった。
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