研究実績の概要 |
移植片対宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)と感染症は、同種造血幹細胞移植における重大な合併症である。本年度は同種造血幹細胞移植後の大腸goblet細胞の動態解析を行い、同細胞の意義を明らかにした。マウスモデルにおける検討では、同種造血幹細胞移植後にGVHD非発症例に比べ、GVHD発症例ではgoblet細胞が有意に減少し、その減少は持続的であった。Goblet細胞は粘液を産生し、腸上皮細胞を保護する機能を有するが、GVHDの発症によりgoblet細胞の産生する粘液内層に破綻が生じ、腸上皮内への腸内細菌の侵入を認めた。Goblet細胞の増殖因子であるinterleukin-25 (IL-25)を同種造血幹細胞の移植前に投与したところ、大腸goblet細胞がGVHDから保護され、粘液内層が保持された。これにより腸上皮内への腸内細菌の侵入が阻止され、感染症の発症抑制やpathogen-associated molecular patterns (PAMPs)の体内侵入の抑制によって、IFN-gamma, IL-6といった炎症性サイトカインの産生低下がみられ、GVHDの改善がもたらされた。IL-25によるGVHD軽減作用は、大腸上皮細胞由来で有鞭毛細菌の運動性を抑制することで抗菌活性を示す分子、Lypd8に依存していた。次に、北海道大学病院での臨床例の解析を行った。同種造血幹細胞移植後の大腸生検標本を解析し、大腸goblet細胞の減少の程度が、腸管GVHDの重症度、移植関連死亡率の増加、全生存率の低下と相関した。これらの結果から大腸goblet細胞の減少は、移植転帰に関連し、IL-25によるgoblet細胞の保護は、GVHDの新たな予防、治療戦略となりうると考えられた。
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