研究課題/領域番号 |
17H04208
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
新井 文用 九州大学, 医学研究院, 教授 (90365403)
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研究分担者 |
国崎 祐哉 九州大学, 大学病院, 講師 (80737099)
細川 健太郎 九州大学, 医学研究院, 講師 (90569584)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / 間葉系幹細胞 / ニッチ分子 |
研究実績の概要 |
本研究ではシングルセルレベルの細胞分裂解析技術と生体組織工学技術を応用した造血幹細胞の細胞分裂パターンの解析を行い、対称・非対称分裂の制御、すなわち自己複製と分化の実体解明に挑戦する。H29年度は、我々が同定した新規ストローマ細胞分画 [CD45-CD31-Ter119-ALCAM+Sca-1-Itga8+Cdh2+細胞 (以下ALCAM+Itga8+細胞)] について、その特性を解析するとともに、ニッチ分子の発現を検討した。 1. ALCAM+Itga8+細胞の間葉系幹細胞(MSC)活性の検討:ALCAM+Itga8+細胞はこれまでに同定されている骨髄内MSCや骨芽細胞分画とは異なり、多能性幹細胞に近い遺伝子発現パターンを示すことから、MSCであると考えられた。そこで、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化能を検討したところ、3系統全てに分化可能であることがわかり、ALCAM+Itga8+細胞が新規MSCであることが明らかとなった。 2. ALCAM+Itga8+細胞におけるニッチ分子の発現解析:ALCAM+Itga8+細胞は造血幹細胞との共培養において骨髄再構築能を維持させたことから、ニッチ細胞としての機能をもつと考えられる。そこで、シングルセル遺伝子発現解析により、ALCAM+Itga8+およびALCAM+Itga8-細胞について、サイトカインを中心に既知のニッチ分子の発現を解析し、骨髄MSC (CD51+PDGFRa+細胞) と比較したところ、ALCAM+Itga8+細胞では、造血幹細胞においてTie2受容体のアンタゴニストとして働くAngiopoietin-2 (Angpt2) の発現が著しく低いことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ALCAM+Itga8+細胞が、Sox2、Pou5f1、Nanogといった多能性幹細胞マーカーを他の分画と比較して高発現していることから骨髄内に存在する新規間葉系幹細胞であると考え本研究を進めてきた。H29年度に得られた研究データから、本細胞分画が骨、脂肪、軟骨への多分化能をもつ幹細胞であることが明らかとなった。この結果は、本研究を推進する上で大きな意義があると考えられる。 ALCAM+Itga8+細胞におけるニッチ分子の発現解析では、Angpt2の発現が極めて低いことが明らかとなった。我々はこれまでにAngpt1刺激によって造血幹細胞の自己複製分裂能がin vitroで維持されることを見出しているが(論文作成中)、今回明らかになった結果からは、ALCAM+Itga8+細胞によって形成されるニッチでは、他のニッチと比べてTie2/Angpt1シグナルがより活性化しており、自己複製分裂により幹細胞数を維持するために優位な環境となっていることことが考えられる。 ALCAM+骨芽細胞は細胞接着を介して造血幹細胞の機能維持に働くことが考えられるため、そのサブポピュレーションとして同定されたALCAM+Itga8+細胞についても、細胞接着分子や細胞外マトリックス分子の発現を明らかにする必要があると考える。
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今後の研究の推進方策 |
1. ALCAM+Itga8+細胞で発現するニッチ分子をさらに解析するために、網羅的な遺伝子発現解析をおこなう。これまでの研究から、骨内膜由来のALCAM+細胞は主に細胞接着を介して造血幹細胞の機能維持に働くことが明らかになっていることから、ALCAM+Itga8+細胞における細胞接着分子の発現について特に詳細な解析をおこなう。 2.ニッチ分子を導入した人工ニッチの構築:上記実験によって同定されたALCAM+Itga8+細胞に特異的に発現するニッチ分子、ならびに既知のニッチ細胞と共通して発現するニッチ分子について、Fcキメラタンパクを準備し、ポリエチレングリコールハイドロゲルを用いて作製したマイクロウェルを修飾する。 3. 造血幹細胞の自己複製分裂を誘導するニッチ分子の同定:上記2の実験によって作製した人工ニッチ内でEvi1-GFP陽性造血幹細胞の培養を行い、GFPの発現を指標に、造血幹細胞の増幅を誘導するニッチ分子の組合せを明らかにする。 4. 人工ニッチを用いた造血幹細胞の細胞分裂解析:成体(8週齢)造血幹細胞のシングルセル培養を行い、得られるPDCについて、細胞分裂パターンを解析する。細胞分裂パターンの解析には、造血幹細胞と造血前駆細胞の遺伝子発現プロファイルを学習させて人工神経回路網(artificial neural network: ANN)を用いる。非対称に分裂した造血幹細胞、および対称性自己複製をおこなった造血幹細胞を同定し、これらの細胞で高発現する遺伝子を明らかにする。これらの実験により、造血幹細胞の自己複製分裂 (S-P分裂およびS-S分裂) 制御に関わる細胞内の候補分子を明らかにする。
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