研究課題
近年、HIV-1潜伏感染細胞であっても、必ずしもその中に完全なウイルスゲノムが組み込まれておらず(主に配列の欠失などによる)、その為、感染性のウイルスを産生しないケースが多数、報告されている。恐らく、感染性ウイルスを産生する、いわゆる真のリザーバーはわずかであると考えられる。一方で、ART治療中断により確実にウイルスはリバウンドしてくるので、真のリザーバーはわずかだが存在する事は確かであり、それらがどの様な細胞集団から構成されているかの解明は重要である、従って、fibrocytesについても本当の意味で潜伏感染細胞と定義できるか慎重に解析する必要がある。そこで本年度は、感染者から分離したfibrocytesに完全長のプロウイルスが検出されるかの解明を試みた。方法は2016年にImamichiらが報告した(PNAS)、5'LTR - to - 3'LTR full-length provirus PCR法に準じて行った。その結果、完全長プロウイルスのPCR増幅系を新たに確立し、実際、未治療慢性感染者1例において、fibrocytesに完全長プロウイルスを検出できた。前年度、fibrocytesがHIV-1潜伏感染細胞である可能性、つまり長期ART治療した慢性感染者の末梢fibrocytesを純化・解析し、90%近くの症例でHIV-1プロウイルス断片を検出し、又、約25%の症例で静止期CD4+ T細胞ではなく、fibrocytesにのみプロウイルス断片を検出しており、今後、目指す、fibrocytesが真のHIV-1リザーバーかの解明に向け、確実・簡便な系を確立したものである。
2: おおむね順調に進展している
当初、fibrocytesが真のリザーバーであるかを解明する為に、感染者からfibrocytesを純化し培養して、その培養上清中に感染性ウイルスが存在するかの実験を行ったが、検出には至らなかった。これは、完全なプロウイルスを有するfibrocytesの頻度が少ないからと予想された、そこで別の方法、つまり、完全長プロウイルスのPCR増幅を試み、実際、系を確立し、未治療慢性感染者1例において、fibrocytesに完全長プロウイルスを検出できた。これは、今年度に目指す、fibrocytesが真のHIV-1リザーバーかの解明に向け、有用な技術基盤となるものである。
前年度に引き続き、更に症例を追加して、潜伏感染fibrocytesの頻度を静止期CD4+ T細胞と比較解析する。具体的には、潜伏感染全体に占めるfibrocytesの貢献度を計る指標の一つとして、長期(2年以上)治療後のHIV-1慢性感染者の末梢血中のfibrocytesに組み込まれたウイルスゲノムの総数を、静止期CD4+ T細胞を陽性コントロールとして、PCRにて比較解析する。PCRでは8組のprimer pairを用いて複数の領域を増幅するが、PCR陽性例では配列も解析して特異的増幅を確認する。同時に、fibrocytesと静止期CD4+ T細胞の間でウイルスゲノム配列を比較し、2つの細胞群で感染したウイルスに違いがあるかも解析する。一方で近年、潜伏感染細胞であっても、必ずしも完全なウイルスゲノムが組み込まれておらず、その為、感染性のウイルスを産生しない症例も報告されている。従って、fibrocytesについても本当の意味で潜伏感染細胞と定義できるか慎重に解析する必要がある。そこで本年度は、特に、治療後の感染者から分離したfibrocytesに完全長のプロウイルスが検出されるかを明らかにする。そしてその検出頻度を静止期CD4+ T細胞と比較し、更にサイズだけでなく、それらの配列を解析して、実際に感染性ウイルスを産生し得るものかも明らかにする。潜伏感染の成立には細胞の組織内分布も重要な要因である。そこで本年度は、HIV-1近縁のサル指向性ウイルスSIVを感染させたサルのリンパ節を中心に、細胞傷害性T細胞(CTL)、抗HIV-1抗体および抗エイズ薬がアクセスしにくい部位にfibrocytesが分布しているか、組織免疫染色にて解析する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
Leukemia
巻: 31 ページ: 2709-2716
10.1038/leu.2017.112.