研究課題/領域番号 |
17H04221
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
鈴 伸也 熊本大学, ヒトレトロウイルス学共同研究センター, 教授 (80363513)
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研究分担者 |
野依 修 熊本大学, エイズ学研究センター, 特定事業研究員 (30737151)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 潜伏感染 / HIV-1 / fibrocytes |
研究実績の概要 |
HIV-1は薬剤でコントロール出来る様になったが、体内から完全に排除されていない為、感染者は生涯に渡り服薬を強いられる。主な原因の一つはHIV-1の潜伏感染である。静止期のCD4+ T細胞における潜伏感染が良く知られ、活発に研究されているが、排除する治療法は未だ確立されていない。一方で、静止期CD4+ T細胞以外にも潜伏感染する事が、治療後の感染者検体を用いたウイルス配列の解析等から分かっているが、細胞としての実体は充分に解明されていない。従って、潜伏感染克服には、静止期CD4+ T細胞の排除に向けた取り組みに加え、未解明の部分が多く残る、他の潜伏感染細胞の同定も重要となっている。 我々はHIV-1と単球・マクロファージの相互作用について長年、研究してきたが、近年、単球・マクロファージと線維芽細胞の両方の性質を併せ持つ、新たな血液細胞fibrocytes(fibroblastic leukocytes)の発見に着目し、HIV-1がfibrocytesに感染するか解析してきた。その結果、無治療のHIV-1慢性感染者の末梢血中fibrocytesに全例でHIV-1ゲノムを検出した。その検出頻度は単球よりも高く、つまりHIV-1に高感受性であった。本研究ではまず、この易感染性のメカニズムを明らかにした。つまり、HIV-1受容体(CD4およびCCR5)が単球よりも有意に高く、逆に抗HIV-1宿主因子(SAMHD1およびMX2)が低いことを見出した。更に、HIV-1感染成人および小児、B型肝炎重複感染成人などの解析から、これら感染者では末梢fibrocytesが増加することも新たに見出した。以上より、HIV-1感染におけるfibrocytesの重要性が更に示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析対象とするfibrocytesがHIV-1に対して易感染性であるメカニズム、そして種々のHIV-1感染者の末梢においてfibrocytesの数が増加することを新たに見出した。更には未治療感染者の末梢fibrocytesにおいて完全長のHIV-1ウイルスゲノムを検出することにも成功してきた。これらは本研究の最終目標である、fibrocytesがHIV-1潜伏感染細胞であるかの解明にとって重要な基盤となるものであり、最終年度の研究に有用となっている。
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今後の研究の推進方策 |
潜伏感染の全体のプールの中に占めるfibrocytesの貢献度を明確にする。その為にまず、治療後の慢性感染者の末梢血中のfibrocytesと静止期CD4+ T細胞などに組み込まれたウイルスゲノムの総数を比較する。具体的には完全長ウイルスゲノムのPCR増幅で評価する。ウイルス遺伝子配列も解析して、2つの細胞群で感染したウイルスに違いがあるかも調べる。 感染性のウイルスを産生し得るかも潜伏感染細胞の重要な特性なので、治療後の慢性感染者の末梢血中fibrocytesのHIV-1遺伝子発現を活性化して、その後に感染性ウイルスを放出するか解析する。既に、培養fibrocytesを用いた解析から、HIV-1遺伝子の再発現にはJQ1が有効であることを見出しているので、特にこの薬剤を応用する。 潜伏感染の成立には細胞の組織内分布も重要な要因なので、感染サルのリンパ節を中心に、細胞傷害性T細胞CTL、抗体、抗エイズ薬が到達しにくい部位にfibrocytesが分布するか解析する。既に予備検討で、fibrocytesはCTLとは異なる部位に局在する可能性を見出しているので、組織免疫染色を中心に更に詳細に解析する。
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