研究課題
化合物のハロゲン化による脂溶性の向上やハロゲン結合の形成といった効果は、細胞内移行性や標的タンパク質との結合などの相互作用の増強などに寄与する。本研究では、良好な薬物動態を示しハロゲン結合を形成する事で HIV-1 野生株及び 多剤耐性HIV-1変異株に対して極めて高い阻害活性を有する新規抗 HIV-1 阻害剤の開発を目的とする。平成30年度までに、HIV-1プロテアーゼ阻害剤にハロゲン元素を導入する部位および数の最適化を行った。過去に同定したGRL-015-16A、KU-241と類似する基本骨格を有し、ハロゲン化された誘導体を複数合成、ハロゲン元素が抗ウイルス活性等に及ぼす影響を詳細に解析した。ハロゲン元素を導入する位置及び数の違いは、野生株HIV-1に対する活性以上に多剤耐性HIV-1変異株に対する抗ウイルス活性に顕著な影響を与えた。結晶構造解析を用いて、HIV-1由来プロテアーゼとハロゲン化された化合物の間で形成されるハロゲン結合の数との相関を検討した。この結果、形成されるハロゲン結合数が多いほど活性が高くなる傾向を示し、更にHIV-1のフラップ領域に存在するアミノ酸の主鎖との間に形成されるハロゲン結合が多剤耐性HIV-1変異株に対する抗ウイルス活性の向上に重要な役割を果たしていることを明らかにした。本成果は、国際雑誌に投稿、平成31年4月の時点で既にacceptされている [S. Hattori et al. AAC , April 3rd, 2019 (in press)]。これらの結果から、平成30年度は、プロテアーゼ阻害剤の化学構造内でハロゲン元素の修飾部位として最適な箇所の特定に成功、今後の新規化合物開発に資する成果を得ることができた。また、本研究成果を基にKU-241に匹敵する抗ウイルス効果を発揮、KU-241のバックアップ化合物として有望な合成された新規化合物の開発に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
平成30年度以降の研究計画では、(1) ハロゲン化部位の最適化、(2) ハロゲン化による細胞内又は生体内での薬物動態の変化、(3) KU-241に匹敵又は凌駕する新規化合物の同定を行う予定としていた。上述の様に、平成30年度の研究成果により、項目(1)に関しては目標を100%達成した。また(3)に関しても、KU-241に匹敵する化合物の同定に成功しており達成度は60~70%程度と考えている。今後、本化合物とHIV-1由来プロテアーゼの構造解析や質量分析を用いた作用機序の解明、in vitro耐性誘導による耐性化機序の解析等により化合物を更に最適化する事でKU-241を凌駕する化合物を開発できる可能性が高く、平成31年度に項目(3)は100%達成される可能性が高い。(2) に関しても、新規化合物の細胞内における活性保持時間等の予備的な検討が既に進行中である。また、平成30年度中に雑誌掲載とはならなかったが、平成31年度4月の時点で薬剤耐性HIV-1変異株に対する新規抗HIV-1剤におけるハロゲン結合の重要性をまとめた論文がacceptされており、研究成果を社会に還元できている点も高く評価できる [S. Hattori et al. AAC , April 3rd, 2019 (in press)]。学会発表等も含め社会に対する情報の発信と研究成果の還元に関しても平成30年度は100%以上達成できたと言える。以上を考慮すると、平成30年度の本研究課題の進度は、少なく見積もっても当初の計画以上であると考えている。
令和元年度 (平成31年度) は、(1) プロテアーゼ阻害剤 (PIs) のハロゲン化部位を固定して基本骨格を変化させた際の化合物の抗ウイルス効果の違いを検討、(2) ハロゲン化による化合物の細胞内又は生体内での薬物動態変化を解析する予定とする。各項目の詳細を下記に示す。(1) プロテアーゼ阻害剤のハロゲン化部位を固定して基本骨格を変化させた際の化合物の抗ウイルス効果の違いを検討: 上述の様に、平成30年度の研究により、PIsをハロゲン化する際の最適部位を決定した。平成31年度は、PIsのP2及びP2’領域の基本骨格を変化させ多種多様な基本骨格から成る化合物を新たに合成し、その抗HIV-1活性の測定を行う。(2) ハロゲン化による化合物の細胞内又は生体内での薬物動態変化の解析: 過去に申請者 (満屋) のグループがヤマサ醤油と共同で開発、Merck社に導出した新規 HIV-1 逆転写酵素阻害剤4’-ethynyl-2-fluoro-2’-deoxyadenosine (EFdA/MK-8591) は、Merck社による第Ⅰ相臨床試験 (Phase Ia) の結果で、1 週間に1回の投与 (QW) 又は 10日に 1 回の投与で十分な抗HIV効果を発揮する事が示唆されている。今後、HIV-1に対する化学療法 (ART) は1日1回 (QD) からQW又は1月1回 (QM)という投与レジメンへシフトする事が予想されている。HIV-1の抗ウイルス療法は複数の薬剤を組み合わせて用いる多剤併用療法であるため、QM投与により十分な抗HIV-1活性を発揮、EFdAと併用可能なPIsの開発が急務である。そこで、平成31年度は、高い抗HIV-1活性を発揮したPIsに関して細胞内で薬効を維持できる時間の検討を試みる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
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