研究課題
独自の先行研究にて、神経栄養因子の受容体GFRA2は心臓前駆細胞に特異的な細胞表面抗原であり、この受容体と類縁分子 GFRA1を介するリガンド(NURTURINとGDNF)に依存しない未知のシグナル経路が異常をきたすと、心筋緻密化障害心筋症が生じる可能性を明らかにした。本研究は、心筋緻密化障害に関与するGFRA1/2 を介した新規シグナル経路の本態を明らかにし、多くが不明なままの難治性かつ予後不良なヒト心筋緻密化障害の病理病態と臨床遺伝学的背景の理解を深める基盤研究を行う。計画している研究項目は、(1) 心臓発生に必要な新規 GFRA1/2 シグナル経路の解明、(2) Gfra1/2のマウス心臓発生における心筋緻密化過程に果たす役割の詳細な解析、および (3) ヒト心筋 緻密化障害患者の GFRA1/2 遺伝子変異探索によるヒトの病態での生理的意義の確認である。(1)心臓発生に必要な新規 GFRA1/2 シグナル経路の解明に関し、マウスES 細胞にてGFRA2と相互作用をする分子を探索するため、まずはCRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を用いてGFRA2タンパクにタグを標識するゲノム編集を行う。現在、マウスES細胞を用いたゲノム編集作業中である。(2)Gfra1/2のマウス心臓発生における心筋緻密化過程に果たす役割の詳細な解析を行うために、まずはGfra2を発現した細胞系譜をマウス胚体内で追跡するためのマウスと、コンディショナル・ノックアウト・マウスを作成する。現在は 遺伝子改変マウスの作成中である。(3)ヒト心筋 緻密化障害患者の GFRA1/2 遺伝子変異探索のための研究を推進するため、研究ネットワークの構築はすでに完了した。ヒトゲノム研究の承認審査に対して、現在もなお準備中である。
4: 遅れている
以下の理由により半年から1年ほどの研究計画の遅れが生じている。(1)マウスES細胞を用いた心筋の分化誘導系に重大な支障が生じている。ES細胞の維持培養に現在広く用いられている2i+LIF培地と呼ばれる培地を用いていたが、これにより維持してきたES細胞が、継代を重ねるごとに心筋分化の効率が著しく低下した。この2年ほどで報告されているが如く、2i+LIFで維持されたES細胞は、エピジェネティックな状態に大きな変化を生じて、分化能に大きな影響が生じてしまったようである。現在、この問題を解決するための作業中である。(2)CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集方法を用いたノックインを行う実験計画であったが、どの方法を用いてもin/delに基づく変異は生じるものの、論文として報告されているような遺伝子組換え効率が全く得られなかった。そのため方針を大きく転換せざるを得ず、遺伝子改変の方法を古典的な方法に変更し、現在も改変体を得るための作業を行なっている。(3)当該年度中に、研究施設を異動する事となった。そのために、旧所属施設での研究資材の整理、異動先への研究資材の移設と必要とする研究環境の新たな整備が必要となり、実質的な研究活動を半年ほど停止せざるを得なかった。また、異動先にて、新しく研究に参画する人員を求める必要にも迫られている。これらの人員不足を含む事情が研究作業を一時的に停滞させ、スケジュールに大きな遅れを生じさせる原因となった。(4)ゲノム検体採取のためのボランティア患者のリクルートには、施設の異動に伴い、異動先でのヒトのゲノム研究の認可手続に今から着手する状況である。上述の如く、研究材料における不測の事態、研究代表者の施設間での異動、認可手続きの状況、また研究に参画する人員の絶対的な不足により、進捗状況に当初の研究計画から遅れを生じている。
(1)心臓発生に必要な新規 GFRA1/2 シグナル経路の解明; まず、心筋分化効率の低下しない 2i+LIFとは異なる古典的な維持培養を用いて、かつ遺伝子改変も基本に立ち返った古典的方法にてマウスES細胞での遺伝子改変作業を終了し、遺伝子発現解析とタンパク発現解析に着手する。(2)Gfra1/2のマウス心臓発生における心筋緻密化過程に果たす役割の詳細な解析;遺伝子改変動物の作成を本年度中に終了し、変異マウスの表現型の解析に着手にまでこぎつけたい。(3)ヒト心筋 緻密化障害患者の GFRA1/2 遺伝子変異探索によるヒトの病態での生理的意義の確認;年度内に学内でのヒトゲノム研究の承認を得、附属病院小児科外来における検体採取作業へと着手出来るようにしたい。研究進捗の遅れの原因には、絶対的な人員不足も大きな要因として挙げられる。これを解消するために、大学院生のリクルートを積極的に行いたい。
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bioRxiv
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実験医学増刊「心不全のサイエンス」
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