研究課題
388名の気分障害患者の既存データを用いて、認知機能は自覚指標と関連し、他覚指標との関連は有意ではないことを示した。自覚ウェルビーイング/イルビーイングと他覚ウェルビーイング/イルビーイングを担う脳基盤は一部異なるという仮説が支持された。そこで大うつ病性障害患者309名を対象に、NIRSにより測定した語流暢性課題施行時の賦活反応性を用いて、自覚的うつ症状・他覚的うつ症状のそれぞれと相関する脳部位の検討を行った。他覚的うつ症状の重症度と下前頭回領域、自覚的うつ症状と両側側頭部領域の間でそれぞれ負の相関を認めた。また、自覚・他覚的うつ症状の重症度をそれぞれ標準化(Z[自覚うつ]、Z[他覚うつ])し、それらの差分により得られた乖離の程度(Z[自覚うつ]-Z[他覚うつ])と賦活反応性の相関を検討したところ、いくつかの脳部位で相関傾向を認めた。うつの自覚指標と他覚指標に一定以上の乖離がある大うつ病性障害患者群(N=6)と自覚指標と他覚指標に乖離がない大うつ病性障害患者群(N=10)における構造MRIと安静時機能的MRI(rs-fMRI)の予備解析を行った。構造MRIでは自覚指標と他覚指標の乖離群において左下前頭回で有意な体積低下を認め、他覚的うつ指標と体積低下は正の相関を示した。rs-fMRIでは左外側頭頂皮質と両側中側頭回・後部帯状回・両側前頭極のRSFC (resting state functional connectivity)低下と左下前頭回・両側縁上回・淡蒼球とのRSFC上昇を認めた。全頭型プローブNIRS装置を用い22名の大うつ病性障害の患者のRSFCを計測し、78名の健常者のRSFCと比較した。うつ病群は健常群と比べ認知制御ネットワークの一部と考えられる左前頭前皮質背外側部―頭頂葉間でRSFCが低下し、他覚的うつ症状の強さと負に相関した。
1: 当初の計画以上に進展している
これまで、自覚・他覚ウェルビーイングとイルビーイングの脳基盤が一定程度segregateされている可能性については、脳科学においても精神医学においても、問題設定がなされてこなかった。そこで、脳画像における詳細な解析に入る前に、既存の神経心理・自覚/他覚臨床指標の大規模データを用いて、仮説の成立を検証した。そこで、実績概要にも述べたように、388名の気分障害患者の既存データを用いて、認知機能(WAIS-IIIによるIQ)と自覚(WHO-QOL26)・他覚指標(HAM-D)の関連を調べたところ、IQはWHO-QOLと関連し、HAM-Dとの関連は有意ではなかった。このことから、自覚ウェルビーイング/イルビーイングと他覚ウェルビーイング/イルビーイングを担う脳基盤は異なる可能性があるというわれわれの仮説が支持された。この予備的研究結果は現在論文執筆中である。この検討については、当初計画に入れていなかったもので、これによりその後の脳画像研究の仮説が明確になったことは、研究の効率化をもたらし、当初の計画以上に進展する原動力となった。以上の前提にもとづき、大うつ病性障害患者309名という大規模サンプルを対象にNIRSと自覚・他覚症候との関連を検討した点も、当初の予想を上回る成果である。その他、resting state fMRIを用いた検討や、resting state fNIRSを用いた検討については、当初計画どおりに順調に進展した。
1) Discovery sampleのtime 2計測:平成29年に撮像を終えたdiscovery sample (N=50)に対して、平成30年度後半から、1.5年後のfollow-up計測を行う。Drop-out rateを20%と見込み、N=40の撮像を行う。このうち平成30年度はN=20、平成31年度は残りのN=20の撮像を行う。drop-out rateを最小限に食い止めるよう、半年毎にハガキで住所変更等がないかの確認を含めて被験者との連絡を継続するように努める。2) Replication sample計測:平成30年度前半から、Replication sample (最終N=50目標)のリクルートを行う。平成30年度はこのうちN=30、平成31年度は残りのN=20の撮像を行う。3) Discovery sampleデータの解析平成29年に得られたDiscovery sampleデータ(N=50)に対し、MRI T1強調画像により測定される関心領域脳体積、rs-fMRIにより得られる脳部位間機能的結合、NIRSを用いて測定されるLFT課題による脳活動、rs-fNIRSにより得られる脳皮質部位間機能的結合等を、脳神経基盤探索のモダリティとして用いて、自覚・他覚指標との相関解析を行う。まず、MRI T1強調画像データのクオリティチェックを施行する。次に、MRI構造自動解析法等を利用して画像解析を施行し、自覚的および他覚的なウェルビーイング・イルビーイングの脳神経基盤を探索する。同様に、rs-fMRI、LFT中のNIRSデータ、rs-fNIRSデータをそれぞれ利用して、自覚的および他覚的なウェルビーイング・イルビーイングの脳神経基盤を探索する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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