研究課題/領域番号 |
17H04245
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
三辺 義雄 金沢大学, 医学系, 教授 (60181947)
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研究分担者 |
橋本 隆紀 金沢大学, 医学系, 准教授 (40249959)
戸田 重誠 昭和大学, 医学部, 准教授 (00323006)
廣澤 徹 金沢大学, 附属病院, 助教 (80645127)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 死後脳 / Neuregulin 1 / 大脳皮質 / オシレーション / 免疫炎症系 |
研究実績の概要 |
統合失調症では作業記憶などの認知機能に低下が認められ、大脳皮質の錐体ニューロン及びパルブアルブミン陽性介在ニューロンの変化とそれによる周期的神経活動γオシレーションの異常が認知機能障害のメカニズムであることが示唆されている。一方、統合失調症では、免疫炎症過程の異常が大規模遺伝学研究や末梢血研究から示されてきた。本年度は、脳内の免疫炎症過程亢進を調節している神経栄養因子Neuregulin 1の受容体であるErbB4の遺伝子発現を、統合失調症患者と性別が同じで年齢・死後経過時間が近い健常対照者から成るペア20組を用いて評価した。患者および健常者のそれぞれ大脳皮質から、背外側前頭前野・頭頂葉後部・連合視覚野・一次視覚野の皮質組織を切り出して、ErbB4遺伝子からalternative splicingにより生じるJMa変異体をreal-time PCRにより増幅した。ErbB4-JMaの発現量は同時に増幅したbeta-actinおよびcyclophylineAの発現量の平均値対する比として計測した。その結果、統合失調症では、ErbB4-JMaの発現が背外側前頭前野で17.6%、頭頂葉後部で37.3%、連合視覚野で95.2%、一次視覚野で135.3%、対照者に比べ増加していることが判明した。統合失調症の発現の増加は大脳皮質4領域を通して有意であり、増加の程度は領域間で優位に異なっていた。すなわち統合失調症におけるErbB4-JMaの発現増加は、前頭部より後頭部のほうがより強いことが判明した。Neuregukin 1は炎症を抑制する働きがあり、今回の結果から大脳皮質の領域間で炎症反応に違いがあることが考えられた。 臨床研究としては、初発で未治療の統合失調症患者において、臨床症状、血液中の炎症マーカーの計測とγオシレーションの計測を、治療前と治療後の2時点で評価し比較するプロジェクトについて、金沢大学医学倫理審査委員会による承認を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中枢神経内で免疫炎症反応を抑制性に調節している分子が、統合失調症で優位に増加していることを示すことができた。これの変化は、亢進した免疫炎症反応に対する代償性の変化の可能性があり、Neuregulin-1やErbB4のシグナルを増強することで免疫炎症反応を軽減する治療法の開発に結び付く可能性がある。発現変化の程度が領域間で異なることも新たな発見であり、免疫炎症の亢進にたいする代償性変化は、前頭部に比べ後頭部でより強いことを示している。これは、錐体ニューロンの棘突起の変化が前頭前野で認められ、一次視覚野で認められないことと関連している可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
統合失調症では、ErbB4-JMaの発現が、後頭葉でより大きく増加しており、樹状突起と棘突起の減少に結び付く可能性のある免疫炎症系の亢進をより強力に抑制している可能性を示唆している。そこで死後脳研究では、統合失調症の大脳皮質の4領域(背外側前頭前野・頭頂葉後部・連合視覚野・一次視覚野)において、錐体ニューロンの樹状突起と棘突起の形成の担う分子の発現変化を評価し、ErbB4の発現変化との相関をしらべる。また、実際の患者ボランティアのリクルートを開始し、臨床症状、血液中の炎症マーカーの計測とγオシレーションの計測を開始する。
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