研究課題/領域番号 |
17H04250
|
研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
佐野 輝 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (30178800)
|
研究分担者 |
中村 雅之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (90332832)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 有棘赤血球舞踏病 / VPS13A / chorein / 創始者効果 |
研究実績の概要 |
有棘赤血球舞踏病 (ChAc)は稀な常染色体劣性遺伝性神経変性疾患であり患者数は世界で1000症例程と推定されている。日本人ChAcについては100症例以上の報告があり日本人に比較的多い疾患と考えられるが、原因遺伝子(VPS13A)変異の分布などは明らかにされていない。今回、日本人ChAcの臨床データベース構築の一環として、ChAcと臨床診断された17名の日本人ChAc症例について赤血球膜分画を用いたVPS13A遺伝子産物であるchoreinのウェスタンブロット解析による分子的診断を行い、コピー数変異 (Copy Number Variation; CNV) 解析を含めた包括的遺伝子変異解析を行なった。また、これまでに我々がChAcの分子的診断を下した既報22症例を加えた39名の日本人ChAc症例における臨床症状の解析を行った。choreinの免疫反応が欠損もしくは著しく減損していた17名日本人ChAc患者全例にVPS13A病的変異を同定した。その中で、1種類の新規CNVを含め、11種類のVPS13A遺伝子の新規疾患変異を同定した。ChAc患者において、ナンセンス変異依存mRNA分解と推定される機構によって通常chorein蛋白質の免疫反応は消失するが、ターミネーションコドンを伴わない変異を有した症例においてはchorein蛋白質の免疫反応がわずかに残存した。既報の22例を含めた日本人ChAc39例の臨床症状の解析を行ったところ、遺伝子型―表現型の明らかな相関は認めなかったが、ChAc患者の多くは認知機能の低下を含め多彩な精神症状を呈すことが明らかとなった。日本人ChAc患者においてexon 60-61の欠失変異とexon 37 上のc.4411C>T (R1471X) の遺伝子変異が55.1%を占め東京と西日本に多く存在し、一部の創始者効果が示唆された
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回は日本人有棘赤血球舞踏病患者のデータベース構築に向けた解析を行なった。choreinタンパク質解析、VPS13A遺伝子解析を合わせた分子診断を行い、分子的に診断が確定した39例のChAc患者の臨床症状を解析することができており、概ね順調に進展しているものと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
1) Choreinおよびchorein結合蛋白質の相互作用 choreinを強制発現させたHEK293細胞は、CCCPによってミトコンドリア膜電位消失刺激を与えるときに細胞死が抑制される。今回、choreinノックダウンさせた際の細胞死の変化を経時的に確認する。また、昨年度に引き続き、CCCP処理後のHEK293細胞でのchoreinの存在様式を免疫蛍光染色法により明らかにして、分子として直接的にミトコンドリアの安定化に関与する様子を形態学的に明らかにするための研究を行う。また、CCCP刺激によりchorein相互作用を強めたタンパク質の発現や局在をchoreinノックダウン細胞と比較し、分子病態との子関連を解析する。ChoreinはVPSAP (vacuolar protein sorting assciated protein)という機能ドメインを有すことがわかっている。昨年度に引き続き、CCCP刺激を与えたHEK293細胞にchoreinの機能ドメインを含んだVPS13A-cDNAやその他の領域に対するVPS13A-cDNAをテトラサイクリン誘導発現系で強制発現させて細胞死に対するレスキュー実験を行い、遺伝子治療の基礎となるデータを作っていきたい。 2) Chorein-ミトコンドリア細胞死関連遺伝子群の分子遺伝学的検討 Choreinが機能的に関与することが明らかとなったchorein-ミトコンドリア細胞死関連遺伝子群についてシークエンシングを行い、その多型、変異、発現などをデータベース化した表現型との相関を検討する。私たちは同一病因変異をホモ接合性に持つ一卵性双生児ChAc症例を経験した。遺伝子発現などの差異を網羅的に解析し一卵性双生児でさえ表現型が大きく異なるというChAcの臨床表現型と遺伝子型の乖離についての分子遺伝学的理解を進める。
|