研究課題/領域番号 |
17H04252
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
鍋島 俊隆 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 客員教授 (70076751)
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研究分担者 |
齋藤 邦明 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 教授 (80262765)
山本 康子 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 准教授 (00331869)
毛利 彰宏 藤田保健衛生大学, 医療科学部, 講師 (20597851)
國澤 和生 藤田保健衛生大学, 保健学研究科, 助教 (60780773)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精神薬理学 / うつ病 / セロトニントランスポーター |
研究実績の概要 |
MAGE-D1(Melanoma antigen gene-D1)は、セロトニントランスポーターのユビキチン化に関与し、プロテアソームを介した代謝機構とうつ様行動を調節する。本年度は、ストレスを負荷した幼若期マウスにおける脳内セロトニントランスポーターの代謝機構、およびユビキチン化の調節機序の解明を目指した。幼若期マウスへの社会的敗北ストレス負荷により、社会性行動障害とともに、前頭前皮質におけるMAGE-D1のmRNAおよびタンパク質量の減少、セロトニントランスポーターのユビキチン化の低下とともにタンパク質量の増加が認められた。一方、セロトニントランスポーター恒常発現細胞にユビキチンリガーゼPraja-1を過剰発現させると、セロトニントランスポーターのユビキチン化の亢進とともにタンパク質量の減少が認められた。しかし、リガーゼ機能を欠損させたPraja-1変異体ではそのような現象は認められなかった。さらに、MAGE-D1との共発現はPraja-1過剰発現によるセロトニントランスポーターのユビキチン化の亢進を増強した。以上の結果から、幼若期のストレス負荷によるセロトニントランスポーターのユビキチン化の低下がうつ様行動の発現に関与しており、セロトニントランスポーターのユビキチン化にはMAGE-D1と共にPraja-1が関与していることが示唆された。 セロトニントランスポーターは血液成分において血小板に発現が認められる。本年度は血液成分におけるユビキチン化セロトニントランスポーターの検出を検討した。ユビキチン化セロトニントランスポーターが血小板、血しょう、および血清において認められた。血清には細胞から分泌される脂質二重膜で形成される細胞外小胞が含まれる。細胞外小胞のうち、多胞性エンドソームと呼ばれる細胞内小胞より産生されるエクソソームにはユビキチン化セロトニントランスポーターはあまり認められず、細胞膜から直接出芽されるマイクロベジクルに認められることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画通りに概ね進捗しているが、研究成果の妥当性・再現性を検討するために以下の実験を遂行中であり、さらに追加実験も予定している。 ストレス負荷モデル動物における脳内セロトニントランスポーターの代謝機構、およびユビキチン化の調節機序について、幼若期マウスへの社会的敗北ストレス負荷により検討を行った。さらに、成人期マウスへの社会的敗北ストレス負荷、さらには慢性予測不能軽度ストレス負荷、コルチコステロン慢性投与など他のストレス負荷モデル動物においても同様にセロトニントランスポーターのユビキチン化の低下が認められるか検討を行っている。さらに、これらストレス負荷モデル動物に認められるセロトニントランスポーターのユビキチン化の低下に対する抗うつ薬の効果についても検討を行っている。 ユビキチン化セロトニントランスポーターが血しょう、血清においても認められたが、抗体の特異性等によって差異が認められる可能性がある。そこで、セロトニントランスポーターの他の部位をエピトープにする別の抗体を使用し、再現性が得られるか検討を行う。また、血しょう、血清で認められたユビキチン化セロトニントランスポーターについて、目的とする分子かどうか質量分析法により確認を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ストレス負荷うつ病モデル動物サンプルによるセロトニントランスポーターのユビキチン化レベルの低下の機序の解明を行い、うつ病の発症機序・病態の推察および抗うつ薬の薬効評価を行う。また、抗うつ薬抵抗性のうつ病患者由来のリンパ球細胞株において、セロトニントランスポーターのユビキチン化レベルの低下が認められた(Mouri A, et al., Neurosci Lett, 2016)ので、連携研究者である藤田保健衛生大学医学部精神科の岩田仲生教授より、うつ病患者由来のリンパ球細胞株の提供を受け、セロトニントランスポーターのユビキチン化レベルの低下の機序について、申請者が注目してきたMAGE-D1やユビキチン-プロテアソーム系の関連遺伝子の発現変化や遺伝子変異が関与しているか評価する。また、培養液中に抗うつ薬を添加した時の応答性についても同様に検討する。 うつ病における先制医療の実現には、個人レベルでの健康増進を目的とした早期一次予防に役立つバイオマーカーの探索・開発が鍵となる。研究分担者である斎藤邦明教授は、一般社団法人(非営利)健康科学リソースセンター(RECHS)と提携病院である社会医療法人松波総合病院と協働し、暦年的な品質の高いバイオリソースの蓄積のためのバンク事業と食習慣・ストレス調査、ならびに臨床検査の電子情報からなるデータベース構築事業を進めている。そこで、各個人の暦年的な血液サンプルと、診療情報とからなるデータベースから過去に遡ってコホート研究を行い、血液中のセロトニントランスポーターのユビキチン化を標的とした先制医療の開発を行う。すなわち、RECHSにおける健常人ならびに特定疾患の血液検体におけるセロトニントランスポーターのユビキチン化レベルを定量し、それらと記述式心理検査である気質性格検査およびベックうつ評価尺度での評価と比較することで気質や抑うつとの関連を評価する。
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