研究課題/領域番号 |
17H04252
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
鍋島 俊隆 藤田医科大学, 保健学研究科, 客員教授 (70076751)
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研究分担者 |
山本 康子 藤田医科大学, 保健学研究科, 准教授 (00331869)
毛利 彰宏 藤田医科大学, 保健学研究科, 准教授 (20597851)
國澤 和生 藤田医科大学, 保健学研究科, 助教 (60780773)
齋藤 邦明 藤田医科大学, 保健学研究科, 教授 (80262765)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精神薬理学 / うつ病 / セロトニントランスポーター |
研究実績の概要 |
妊娠・出産などは大きなストレスとなり、周産期に約10~15%がうつ病を発症している。産後うつ病は育児放棄や虐待などにつながることがある。周産期における抑うつの早期発見・治療は重要であるが、妊娠期・産後の定期検診での産婦人科医師による診断・治療は難しい。周産期における抑うつの診断ができるバイオマーカーの探索が求められている。そこで、周産期の閾値下の抑うつ状態の患者の血液中のセロトニントランスポーターのユビキチン化レベルと、心理検査の結果との相関を検討した。精神科診断面接マニュアル(SCID)により、被験者を年齢などの背景が類似するが、妊娠初期や産後において過去1ヶ月にうつ病エピソードを有する患者と有しない患者に分類し、血小板中セロトニントランスポーターのユビキチン化タンパク量を比較した。妊娠初期や産後のどちらの時期においても、うつ病エピソードを有する患者ではユビキチン化セロトニントランスポーター量の減少もしくはそのユビキチン化率の低下が認められた。さらに、SCIDではエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)に基づき、妊娠初期や産後において抑うつが認められた患者(EPDSスコア9以上)と認められない患者(EPDSスコア9未満)に分け、血小板中セロトニントランスポーターのユビキチン化タンパク量を測定した。妊娠初期において抑うつが認められた患者ではユビキチン化セロトニントランスポーター量の減少およびそのユビキチン化率の低下が認められた。産後において、抑うつが認められた患者と認められない患者ではユビキチン化セロトニントランスポーター量およびそのユビキチン化率に変化は認められなかった。これら結果より、血小板中ユビキチン化セロトニントランスポーターはうつ病エピソードに対するバイオマーカーになりうること共に、妊娠期の閾値下の抑うつ状態に対するバイオマーカーとしての有用性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は計画通りに概ね進捗しており、これまで実験動物とヒトの両方で、ユビキチン化セロトニントランスポーターはうつ様行動や気質のバイオマーカーとなる可能性を明らかとした。マウスではストレス負荷により血液中ユビキチン化セロトニントランスポーターの発現量が減少し、ヒトではうつ様気質・性格と血液中ユビキチン化セロトニントランスポーターの発現量の低下が関連することを明らかにすることができた。さらに、今年度はバイオマーカーとしてのユビキチン化セロトニントランスポーターの臨床応用を目指して、うつ患者でも血液中ユビキチン化セロトニントランスポーターの発現量が低下するか検討した。興味深いことに周産期の抑うつ患者で血液中セロトニントランスポーターのユビキチン化レベルの低下と抑うつに相関が認められた、今後、さらに多くのうつ合併症の患者の診断に、血中セロトニントランスポーターをバイオマーカーとして応用できるか検討するために、うつ様症状の発現頻度が高い疼痛性障害患者において、血中セロトニントランスポーターのユビキチン化レベルと抑うつとの関連を評価する予定である。すでに臨床医と共同してうつを合併した疼痛性障害患者血液サンプルを収集中である。
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今後の研究の推進方策 |
身体疾患はうつ病のリスク因子であり、関連する自殺が問題になっている。しかし、一般病院では精神科医は不足し、身体疾患に伴う様々な精神医学問題に対して、専門家が連携して対処するリエゾンが出来る施設は限られており、抑うつ状態を診断するバイオマーカーが待望されている。そこで、うつ様症状の発現頻度が高い疼痛性障害患者において、血中セロトニントランスポーターのユビキチン化レベルと①初診時における抑うつ状態の有無、および②抗うつ薬による治療効果との関連について、検討を行う。
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