研究課題/領域番号 |
17H04255
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
麦倉 俊司 東北大学, 大学病院, 准教授 (20375017)
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研究分担者 |
高瀬 圭 東北大学, 医学系研究科, 教授 (60361094)
神宮 啓一 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00451592)
森 悦朗 東北大学, 医学系研究科, 名誉教授 (30368477)
飯塚 統 東北大学, 大学病院, 助教 (50334660)
金森 政之 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60420022)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MRI / 認知機能障害 / 脳腫瘍 / 小児がん / 放射線治療 |
研究実績の概要 |
小児がん長期生存者の約50%に放射線認知障害が生じる。放射線認知障害のリスク診断、認知障害を回避した放射線治療法の開発(発症予防)、認知障害の遺伝子治療の開発をめざすには、その発症機構の解明が急務である。一方長期生存者からの病理組織採取は難しい。現在Advanced MRIにより、脳微細構造変化に相当するパタメーターや行動の際の脳活動が非侵襲的に評価できるようになっている。本研究は、小児がん長期生存者を対象に、Advanced MRIを用いて放射線認知障害の発症機構を解明し、照射後認知障害マウスから得られた病理組織で検証する。 研究の学術的背景:医療レベルの進歩に伴い小児がん患者の長期予後は著明に改善しているが、頭蓋内照射後の小児がん生存者の約50%に遅発性認知機能障害が生じ、がんが征圧されたにもかかわらず、教育・職業上の障害に直面している。MRIにより非侵襲的に脳微細構造変化や、脳活動の評価が可能である。1. 微小血管損傷を検出できる磁化率強調画像や 2. 神経突起の密度や散乱の程度が評価できる神経突起画像、3. 神経細胞の密度と相関するパラメーターを測定できるMRスペクトロスコピー(MRS)、4. 脳局所血流動態の評価ができる非造影脳灌流画像があり、5. functional MRI(fMRI)では実際の行動に対応する脳の活動が描出できる。 研究A 小児がん長期生存者においてAdvanced MRにより微細構造変化、脳活動変化を検出した。今後、認知機能障害の有無や程度との関連性を検討し、放射線認知障害の発症機構を解明する。そして研究B.放射線認知障害マウスから得た病理組織と対比、検証する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究A. 臨床研究:小児がん長期生存例を対象に 頭蓋内胚細胞性腫瘍の長期生存例約60人を対象にデータの収集を行った(患者登録 分担者 金森政之、代表者 麦倉俊司)。頭蓋内胚細胞性腫瘍を対象にした理由は、日本などの東アジアで多く、当施設は、日本でも有数の症例数を扱い、現在計130人が外来フォロー中である。患者登録は、現在長い間主治医として外来フォローを担当している脳外科金森,リハビリ科飯塚がともに分担者であり、順調になされた。年1回の外来受診にあわせ登録、研究開始となった。認知機能検査:成人知能検査(WAIS-III)、記憶検査(WMS-R)中心に定量評価をおこなった。(分担者 行動神経医 飯塚統、森悦郎)。検査担当は指導医のもと心理士の雇用を行いおこなった。また 質問紙により患者のQOLの評価も同時におこなった。患者登録、患者並びに家族との連絡、データ整理を目的とした研究支援者1名を7月より雇用した。 研究B. 照射マウス実験:(分担者 神宮啓一、金森政之) 本年は 次年度以降の実際の実験に向けた研究計画を立案した。放射線全脳照射マウスモデルの作製:人間の8~10歳に相当する5~6週齢のオスのマウスB6C3F1 (CLEA Japan、Inc.)を用いる。10Gyの頭蓋内照射を受ける照射群:18-20匹、照射を受けない対照群:8-10匹を設ける。本施設のガンマ線発生装置(医学系研究科 共通実験室)を使用し、マウス全脳を照射する予定となった。実験プロトコールに関する助言は、バイエルリサーチコラボレーションプログラムによる協力者:バイエル動物実験施設Dr Hubertus Pietsch Bayer Pharma AG, Germanyと米国シカゴで開催された北米放射線学会期間中に議論を重ねた。
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今後の研究の推進方策 |
研究A. 臨床研究:小児がん長期生存例を対象に 脳腫瘍以外の小児がん患者の多数例に対象を広げる予定である。また頭蓋内への放射線治療は,頭蓋内胚細胞腫瘍以外の小児がん(白血病、悪性リンパ腫,肉腫など)においてもしばしば行われているからである。約150人が登録される予定。明らかとなる晩期認知機能障害の病態は,今後の小児がんの治療、フォローアップ方針に大きく影響を与えうる. 本年度は、多数例の患者登録が予定され、その予定管理、患者との連絡、増加するデータの整理のために研究支援者の雇用を継続する予定である。心理士の雇用も継続する。fMRIを用いた人とのコミュケーションにおける海馬機能(記憶)評価 を行う。長期生存患者で、コミュニケーションに関する記憶をfMRIで評価し、海馬の機能評価を行うという独創的なものである(情報源記憶課題、伝達先記憶課題)。長期生存者は、人とのコミュニケーションがうまくとることができないと報告されている。我々はfMRIを用いて、人とコミュニケーションをうまくとるのに必要な、情報源や伝達先の記憶に海馬が重要な働きをしていることを示した。この研究結果を踏まえ、全脳照射をうけた患者では、海馬の機能障害を生じ、コミュニケーションがうまく取れなくなっているのではないかとの仮説を検証する。課題の作成には、Araya Brain Imaging Advanced MR画像解析専門 の技術協力を得る予定である。 研究B. マウス実験による照射脳実験 マウスの脳認知機能テストは3回行う(照射直前、照射後3カ月、6カ月の安楽死直前)。マウス用タッチスクリーン認識学習装置にておこなう。マウス認知機能テスト:1.対連合学習(目的:海馬、コリン系)、2.ロケーション弁別学習(海馬)他 計4課題。検査の選択は、照射後認知機能障害モデル報告例で用いられているものを中心に選択。
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