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2018 年度 実績報告書

自然免疫機構を標的とした新規放射線性消化管症候群の治療法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 17H04257
研究機関大阪市立大学

研究代表者

植松 智  大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (50379088)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード放射線 / 粘膜障害 / 線維化
研究実績の概要

小腸は特に感受性が高く、腹部放射線照射が行われた際には、治療目的外である小腸で障害が併発することがある。障害が慢性的な炎症へと進行すると晩期障害へと移行し、放射線誘導性腸線維症(Radiation-induced intestinal fibrosis; RIF)は最も重篤な副作用と考えられている。RIFにより硬化した腸は狭窄、通過障害を引き起こし、深刻な場合には外科的除去を行う。RIFは患者のQOLを大きく低減させる要因であるが、有効な予防・治療法は確立されていない。これまでの病態解析から、RIFの予防・治療において好酸球が良い標的となることが考えられた。現在、ヒトの好酸球依存性疾患の治療手段として、IL-5機能を標的とした抗体の応用が精力的に進められている。IL-5は好酸球の分化・増殖に必須のサイトカインであるため、その機能を阻害することで身体から好酸球を選択的に除去できる。IL-5を直接標的にして中和する抗体のほか、近年では好酸球に高発現しているIL-5受容体のα鎖(IL-5受容体α)に対する抗体の開発も進められている。とりわけ後者は受容体に拮抗してIL-5シグナルを中和するだけでなく、抗体のFc部分に脱フコシル化の修飾を加えるポテリジェント技術によって、抗体依存性細胞傷害活性を誘導し、好酸球を直接殺傷することで非常に効率的に好酸球を除去することができ、実際に循環血中からほぼ完全に枯渇させられたという臨床成績が出ている。今回作成したマウスIL-5受容体αポテリジェント抗体を4週ごとに腹腔投与することで、循環血中の好酸球の90%以上、さらに小腸の好酸球の80~90%を枯渇させた状態を維持できることが確認された。この抗体による好酸球除去効果によって、放射線照射後の小腸粘膜下層における好酸球の浸潤は抑制され、好酸球欠損マウスと同等に線維化を顕著に抑えることができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

消化管は放射線に対する感受性が非常に高く、放射線事故あるいは癌の放射線治療において高線量の放射線に被曝すると、急性期から晩期に渡って多彩な障害が引き起こされ、効果的な予防・治療法の確立が強く求められている。近年、特定の組織傷害では、自然免疫系による炎症の誘導が組織障害を増悪させていることが明らかになりつつある。本研究課題では、晩期の小腸線維症、さらには急性期口腔内粘膜炎へと解析の対象を広げ、自然免疫系を標的とした新たな予防・治療戦略の創出を目指す。小腸の線維症に関して、その治療を目的として病因の解析を進めた。まず、マウス腹部への放射線照射は、小腸の粘膜下組織に好酸球を過剰に蓄積させてRIFを引き起すことを示した。一方、好酸球欠損マウスでは、放射線照射後のRIFは顕著に抑制されることから好酸球の寄与が示唆された。照射による慢性の陰窩細胞死は、細胞外アデノシン三リン酸の遊離を促し、粘膜下組織の筋線維芽細胞を活性化してCCL11を発現させ、CCL11が好酸球を遊走させることが分かった。活性化筋線維芽細胞は、同時にGM-CSFも産生し、好酸球はGM-CSFで活性化されて、TGF-βを産生して、筋線維芽細胞による線維化を促進した。治療モデルとして、マウスの腸内好酸球をマウスIL-5受容体α抗体による処置により枯渇させたところ、RIFを非常に顕著かつ効果的に抑制された。以上のことから、我々は好酸球をRIFの病因として同定するのみならず、好酸球を標的とすることがRIFの新しい治療戦略となることを示した。この様に、腸管線維化の機構を明らかにしただけでなく、その病態生理を標的とした新規治療法の立案まで解析をすることができ、その成果は論文として報告することができた(Sci Transl Med. 2018;10(429).)。研究は予想以上のペースで進展している。

今後の研究の推進方策

マウスの舌に高線量の放射線を照射すると、主に糸状乳頭に潰瘍ができるが、その病態形成機構はあまり分かっていない。糸状乳頭では、底部に存在する上皮幹細胞から派生した娘細胞が基底層を構成し、それらが増殖・分化しながら上層へと移動して角質上皮細胞層を形成するというサイクルを活発に繰り返している(Tanaka T, et al., Nat Cell Biol. 15:511:2013)。これは小腸と類似しており、小腸では陰窩で上皮幹細胞とその娘細胞の増殖分化が行われ、派生した上皮細胞が上部へと供給されて絨毛上皮層を形成する。陰窩の上皮細胞はTLR3を高発現しており、放射線に被曝すると、放射線による直接傷害に加えて、TLR3依存的な細胞死が陰窩上皮細胞の死滅を招く二次傷害となり、結果として絨毛上皮層が破綻してGISに至る (Takemura N, et al. Nat ommun. 2014;5:3492)。市販の抗TLR3抗体を用いてマウス舌の免疫組織化学染色を行い、TLR3は基底層の細胞に強く発現していることを確認している。マウスの舌以外を鉛遮蔽した状態で20 Gyのガンマ線を照射すると、2週間ほどで舌の表層に潰瘍が生じる。その症状がTLR3欠損マウスで有意に軽度である予備的知見を得ている。今後、①TLR3が誘導する傷害の形態、②TLR3が誘導する下流の情報伝達機構、③TLR3阻害剤の効果について解析する。

  • 研究成果

    (18件)

すべて 2018

すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 7件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] Gut carbohydrate inhibits GIP secretion via a microbiota/SCFA/FFAR3 pathway.2018

    • 著者名/発表者名
      2.Lee EY, Zhang X, Miyamoto J, Kimura I, Taknaka T, Furusawa K, Jomori T, Fujimoto K, Uematsu S, Miki T.
    • 雑誌名

      J Endocrinol.

      巻: 239(3) ページ: 267-276.

    • DOI

      doi: 10.1530/JOE-18-0241.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Intestinal CD103(+)CD11b(+)cDC2 Conventional Dendritic Cells Are Required for Primary CD4(+) T and B Cell Responses to Soluble Flagellin.2018

    • 著者名/発表者名
      Flores-Langarica A, Cook C, Muller Luda K, Persson EK, Marshall JL, Beristain-Covarrubias N, Yam-Puc JC, Dahlgren M, Persson JJ, Uematsu S, Akira S, Henderson IR, Lindbom BJ, Agace W, Cunningham AF.
    • 雑誌名

      Front Immunol.

      巻: 9 ページ: 2409

    • DOI

      doi: 10.3389/fimmu.2018.02409.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Innate immune adaptor TRIF deficiency accelerates disease progression of ALS mice with accumulation of aberrantly activated astrocytes.2018

    • 著者名/発表者名
      4.Komine O, Yamashita H, Fujimori-Tonou N, Koike M, Jin S, Moriwaki Y, Endo F, Watanabe S, Uematsu S, Akira S, Uchiyama Y, Takahashi R, Misawa H, Yamanaka K.
    • 雑誌名

      Cell Death Differ.

      巻: 25(12) ページ: 2130-2146

    • DOI

      doi: 10.1038/s41418-018-0098-3.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] DUSP10 constrains innate IL-33-mediated cytokine production in ST2(hi) memory-type pathogenic Th2 cells.2018

    • 著者名/発表者名
      5.Yamamoto T, Endo Y, Onodera A, Hirahara K, Asou HK, Nakajima T, Kanno T, Ouchi Y, Uematsu S, Nishimasu H, Nureki O, Tumes DJ, Shimojo N, Nakayama T.
    • 雑誌名

      Nat Commun.

      巻: 9(1) ページ: 4231

    • DOI

      doi:10.1038/s41467-018-06468-8.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Inhibition of microsomal prostaglandin E synthase-1 facilitates liver repair after hepatic injury in mice.2018

    • 著者名/発表者名
      6.Nishizawa N, Ito Y, Eshima K, Ohkubo H, Kojo K, Inoue T, Raouf J, Jakobsson PJ, Uematsu S, Akira S, Narumiya S, Watanabe M, Majima M.
    • 雑誌名

      J Hepatol.

      巻: 69(1) ページ: 110-120.

    • DOI

      doi: 10.1016/j.jhep.2018.02.009.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Effects of long-term intake of a yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038 and Streptococcus thermophilus 1131 on mice.2018

    • 著者名/発表者名
      7.Usui Y, Kimura Y, Satoh T, Takemura N, Ouchi Y, Ohmiya H, Kobayashi K, Suzuki H, Koyama S, Hagiwara S, Tanaka H, Imoto S, Eberl G, Asami Y, Fujimoto K, Uematsu S.
    • 雑誌名

      Int Immunol.

      巻: 30(7) ページ: 319-331

    • DOI

      doi: 10.1093/intimm/dxy035.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Generation of tumor antigen-specific murine CD8+ T cells with enhanced anti-tumor activity via highly efficient CRISPR/Cas9 genome editing.2018

    • 著者名/発表者名
      8.Ouchi Y, Patil A, Tamura Y, Nishimasu H, Negishi A, Paul SK, Takemura N, Satoh T, Kimura Y, Kurachi M, Nureki O, Nakai K, Kiyono H, Uematsu S.
    • 雑誌名

      Int Immunol.

      巻: 30(4) ページ: 141-154

    • DOI

      doi: 10.1093/intimm/dxy006.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Eosinophil depletion is a potential therapeutic strategy for radiation-induced fibrosis in small intestine2018

    • 著者名/発表者名
      Satoshi Uematsu
    • 学会等名
      18th WORLD CONGRESS OF BASIC AND CLINICAL PHARMACOLOGY (WCP2018)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 好酸球と筋線維芽細胞の相互作用は、放射線誘導性線維症に必須の役割を果たす2018

    • 著者名/発表者名
      植松智
    • 学会等名
      第42回日本リンパ学会総会
    • 招待講演
  • [学会発表] 腸内ウイルス叢のデータベース構築と新規腸内ウイルスの探索2018

    • 著者名/発表者名
      藤本康介、井元清哉、植松智
    • 学会等名
      第4回日本骨免疫学会
  • [学会発表] 強力に全身免疫と粘膜免疫を誘導する革新的な粘膜ワクチンの開発2018

    • 著者名/発表者名
      植松智
    • 学会等名
      BIO Tech2018
    • 招待講演
  • [学会発表] 腸内ウイルス叢の解析について2018

    • 著者名/発表者名
      植松智
    • 学会等名
      第83回日本インターフェロンサイトカイン学会
    • 招待講演
  • [学会発表] 腸内細菌叢と加齢2018

    • 著者名/発表者名
      藤本康介、植松智
    • 学会等名
      第15回DIA日本年会
    • 招待講演
  • [学会発表] 腸管におけるウイルス叢の解析2018

    • 著者名/発表者名
      藤本康介、植松智
    • 学会等名
      第49回日本消化吸収学会総会
    • 招待講演
  • [学会発表] Innovative prime-boost vaccine method strongly induces both systemic and mucosal immunity2018

    • 著者名/発表者名
      Kosuke Fujimoto, Satoshi Uematsu
    • 学会等名
      第47回日本免疫学会学術集会
  • [学会発表] 腸内微生物叢解析の最前線2018

    • 著者名/発表者名
      植松智
    • 学会等名
      第49回日本小児消化管機能研究会
    • 招待講演
  • [図書] 医学のあゆみ 3.【自然免疫の最前線】 内因性リガンドによる自然免疫系の活性化 腸管バリア機構と自然免疫2018

    • 著者名/発表者名
      藤本 康介, 植松 智
    • 総ページ数
      5
    • 出版者
      医歯薬出版株式会社
  • [図書] 『糖尿病の最新治療』6.腸内細菌からみて」2018

    • 著者名/発表者名
      藤本康介, 植松智
    • 総ページ数
      5
    • 出版者
      フジメディカル出版

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公開日: 2019-12-27  

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