悪性固形腫瘍内の複雑な微小環境の中で、一部のがん細胞が抗酸化物質の産生を介して放射線抵抗性を獲得していることが指摘されている。放射線治療後のがんの再発を防ぐためには、『がん細胞が抗酸化能を獲得する機序』を解明し、適切に制御する手法を確立することが肝要である 。これまでの研究で我々は、独自に見出した低酸素誘導性分泌タンパク質hypoxia-inducible secretary protein 2(HISP2)が、HISP2を受容した細胞の抗酸化能とDNA損傷修復能を活性化し、放射線抵抗性を誘導する可能性を示してきた。 今年度は、HISP2タンパク質を放射線治療効果の蔵相に資する治療標的とする有用性と、HISP2タンパク質の血中量を指標に、腫瘍内低酸素の量をモニターすることが可能か否かを検証する実験を展開した。具体的な研究成果は以下の通りである。 (1)HISP2の過剰発現によって、DNA損傷の発生頻度が低下するかを、DNA二重鎖切断検出用レポーター遺伝子(53BP1-EGFP発現ベクター)を用いて検証した結果、仮説を支持する結果を得た。また、細胞の放射線抵抗性への影響を検証する目的で、Clonogenic Cell Survival Assayを実施し、HISP2による放射線抵抗性の亢進を確認した。 (2)in vitroの実験を通じて、がん細胞を低酸素環境下(0.1%酸素濃度)で培養した時間に応じて、また低酸素環境の厳しさに応じて、培地中に分泌されるHISP2タンパク質の量が増加することを確認した。 (3)ヒト由来がん細胞を免疫不全マウスに移植して準備した担がんマウスに、溶血剤(フェニルヒドラジン)を投与して腫瘍組織を低酸素化した場合に、血中に分泌されるHISP2タンパク質の量が増加することをELISA実験で確認した。
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