DNA2本鎖切断修復機構は少なくとも4種類あり(相同組換え修復、非相同末端結合、微小相同配列媒介末端結合(MMEJ)、一本鎖アニーリング(SSA))、使用する機構により修復結果の塩基配列に差がでることが報告されている。そこでヒト大腸癌培養細胞において、DNA修復部位の塩基配列を次世代シークエンサーを用いて分析した。poly(ADP-ribose) polymerase (PARP)は DNA修復機構の選択を修飾する因子と考えており、PARP阻害薬を用いることによる修復結果の変化を検討した。 まずCRISPR-Cas9酵素を用いて既知の塩基配列にDNA2本鎖切断を作成し、その修復後の塩基配列を分析した。大多数は再接合部の上下流に塩基配列の類似性は小さく相同配列長は0-1であるものの、最長で6までの相同配列がみられた。しかしPARP阻害薬を併用することにより、配列長が4-6の微小相同配列は有意に減少した。 次にX線照射を行い、まず損傷修復による染色体転位部位を同定した。対照と比較して10 Gyの照射により染色体転位はやや増加がみられたが、統計学的有意な差はなかった。しかしPARP阻害薬併用下に照射した場合は照射のみと比較して有意に染色体転位が増加した。ここで染色体転位を生じた再接合部位の上下流の塩基配列の類似性を分析したところ、対照と比較して10 Gyの照射では塩基配列の類似性に変化はなかった。しかし、PARP阻害薬を併用した場合は、接合部位周囲の塩基配列に有意な類似性の増加を認めた。特に塩基配列長が10を超えるような長い相同配列が多く見られるのが特徴であった。 PARP阻害薬によりMMEJによる修復が減少し、SSAによる修復が増加したと考えられ、DNA2本鎖切断後の染色体転位にSSAが関与する可能性が示唆された。
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