研究課題/領域番号 |
17H04264
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
一戸 辰夫 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (80314219)
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研究分担者 |
前川 平 京都大学, 医学研究科, 教授 (80229286)
三浦 康生 京都大学, 医学研究科, 助教 (70605146)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 被ばく医療 / 組織再生治療 / 間葉系幹細胞 / 細胞外小胞 |
研究実績の概要 |
申請者らは、急性放射線症候群を含む放射線惹起性臓器障害に対する新しい細胞治療法として、間葉系幹細胞(MSC)と造血幹細胞の共移植法の開発を目指しているが、これまでその有効性を高めることを目的としてMSCの機能を薬理学的に賦活化するための基礎的研究を行ってきた(Miura Y, Chimerism 2013; Yoshioka S, Stem Cells 2014; Yao H, Stem Cells 2014; Sugino N, Biol Biochem Res Commun 2016)。本研究では、さらにその成果を発展させ、放射線損傷を受けた組織幹細胞に対するMSC由来細胞外小胞(MSC-EVs)の生物学的作用を解明するとともに、種々の放射線惹起性臓器障害に対するMSC-EVを用いた新たな組織再生治療法を開発することを目的としている。本年度の研究では、まずヒト骨髄MSCから高純度でEVを分離する方法を確立し、マウスモデルを用いて、MSC-EVが造血細胞移植後の移植片対宿主病の改善に寄与するとともに、全身放射線照射後に発症する消化管の粘膜障害を修復し得ることを確認した。また、この効果はヒト繊維芽細胞由来のEVでは再現されず、EVに含まれるマイクロRNAの網羅的比較解析の結果、MSC-EVにおいて含有量が多い特定のマイクロRNAがこれらの作用に関連している可能性を示唆する国際的にも新知見となる研究成果が得られた(Fujii S, et al. Stem Cells 2018)。また本成果は、MSCが分泌する生体ナノ粒子であるEVが、細胞間のコミュニケーションツールとして働き、免疫担当細胞の機能を系統的に制御していることを初めて明らかにしたものであり、MSC-EVを利用した新しい免疫調節療法の臨床開発への道を開くことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、放射線損傷を受けた組織幹細胞に対するMSC由来EV(MSC-EVs)の生物学的作用の分子機構を網羅的手法により解明するとともに、急性放射線症候群を含む種々の放射線惹起性臓器障害に対するMSC-EVを用いた新たな組織再生治療法を開発することを目的としているが、当初の研究計画通り、ヒト骨髄由来MSC-EVの高純度分離法を確立し、動物モデルを用いて消化管粘膜障害に対するMSC-EVの生物学的作用を確認できたことは大きな進捗であった。実際、この成果のインパクトを示すものとして、今年度に公開した論文の概要が全国版の新聞紙面においても報道されたことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に開始したMSC-EVsと組織幹細胞の相互作用を解明するための基礎的研究を継続するとともに、放射線障害に対するMSC-EVsを用いた新たな組織再生治療法の臨床開発を目指したin vivoモデルを用いた研究をさらに推進する。具体的には、各臓器に特異的な放射線障害に対する局所的あるいは全身的なMSC-EVs輸注の安全性と有効性を確認・検証するための動物実験を行うとともに、その作用に関与する物質をセクレトーム解析等の方法で同定し、創薬への展開を目指す。また、実際の臨床使用に向け、MSC培養上清から臨床使用が可能な品質のEVsを高純度で分離調整するためのGMP基準にしたがった調整法を確立するとともに、凍結や長期保存によるMSC-EVの機能の変化等についても検討を行う。
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