研究課題
申請者らは、急性放射線症候群を含む放射線惹起性臓器障害に対する新しい細胞治療法として、間葉系幹細胞(MSC)と造血幹細胞の共移植法の開発を目指しているが、これまでその有効性を高めることを目的としてMSCの機能を薬理学的に賦活化するための基礎的研究を行ってきた(Miura Y, Chimerism 2013; Yoshioka S, Stem Cells 2014; Yao H, Stem Cells 2014; Sugino N, Biol Biochem Res Commun 2016)。本研究では、さらにその成果を発展させ、放射線損傷を受けた組織幹細胞に対するMSC由来細胞外小胞(MSC-EVs)の生物学的作用を解明するとともに、種々の放射線惹起性臓器障害に対するMSC-EVを用いた新たな組織再生治療法を開発することを目的としている。前年度のマウスモデルを用いた研究において、骨髄由来のMSC-EVが造血細胞移植後の移植片対宿主病の改善に寄与するとともに、全身放射線照射後に発症する消化管の粘膜障害を修復し得ることが確認されたため(Fujii S, et al. Stem Cells 2018)、今年度は特にMSC-EVが全身被ばく後の造血免疫系の再構築に与える影響の解明に向けて研究を深化させるため、非致死線量の全身放射線照射を用いた動物モデルの検討に着手した。また、本研究に付随する共同研究として、β2ミクログロブリン欠損マウスを用いて、骨髄のみならず脂肪組織由来MSCにも主要組織適合性抗原非依存的な免疫抑制活性が存在することを確認し(Masuda J, et al. Exp Ther Med 2018)、その作用が主にインターフェロンγの産生の抑制を介していることを報告した。
2: おおむね順調に進展している
所属研究機関の異動に伴う研究分担者の変更等により、全体の研究計画を見直す必要が生じ、当初に予定していた6種類の研究課題のうち、MSC自体への放射線照射がEVsの放出に与える影響の検討およびGMP基準にしたがったEVsの調整法の開発には着手することができなかったが、それ以外の4つの課題には研究開始前には未知であった新知見が得られているため、概ね順調に進捗していると自己評価する。
放射線障害に対するMSC-EVsを用いた造血免疫系の修復を目指した研究をさらに推進するため、新たにマウスモデルを用いた免疫系全体の解析に習熟し、多くの実績を有する研究分担者を追加する。また、EVを活用した創薬の礎とするため、特に骨髄あるいは脂肪組織由来MSCの培養上清から分離調整したMSC-EVのセクレトームの解析を継続する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (3件)
Cell Biol Int.
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/cbin.11117.
Exp Ther Med.
巻: 16 ページ: 4277-4282
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https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/43091
https://www.hiroshima-u.ac.jp/en/koho_press/kohoshi/HUUpdate
https://www.hiroshima-u.ac.jp/rbm/research/press