研究実績の概要 |
本研究は“炎症”的な微小環境が癌の前転移ニッチの特性の一つであることを仮説として立てた。前年度で放射線照射した肺組織内に好中球やマクロファージの集積およびIL-1betaなど炎症性サイトカインやケモカインの発現上昇が前転移ニッチを形成し、癌転移の促進に貢献したことを証明した。 本年度は、外科手術侵襲による炎症惹起ががん転移への促進について検証した。成獣(12-14週齢)C57BL/6マウスに開腹で腸管虚血再灌流傷害モデルを作製し、6、24、72時間後にLewis肺癌細胞を経静脈注射により肺内腫瘍転移を評価した。その結果、外科的手術による腸管虚血再灌流傷害6時間後にがん細胞を静脈注射した場合には、5週間後に肺内腫瘍結節の数を有意に増加していたことが判明した。一方、手術前および手術24時間後にニカラベンを腹内投与することにより、腸管虚血再灌流傷害手術による肺内腫瘍転移の増加をほぼ完全に抑制された。さらに、ニカラベン投与により、腸管虚血再灌流傷害手術6時間後の末梢血中にTNF-alpha, G-CSF, CXCL13などの低下および肺組織内の炎症性細胞(好中球とマクロファージ)の減少が認められた。ニカラベンは炎症抑制作用により外科的手術後のがん肺内転移に抑制効果を有することを示唆した。 以上の結果から、ニカラベンは癌の前転移ニッチである“炎症”的な微小環境を是正することにより、放射線障害や外科的手術後侵襲を軽減すると同時に、癌転移の抑制も両立する治療薬になりうることが実験的に証明できた。
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