研究実績の概要 |
肝移植は末期肝不全に対する唯一の根本的治療であるが,ドナー不足が喫緊の課題である. 臓器移植に不可避な”虚血再灌流障害IRI”の制御は, 移植後の機能改善のみならず, 拡大適応ドナー(ECD)の移植利用の点からも重要である. 強力な抗酸化作用を有し, かつ無害な”分子状水素H2”はIRIを制御し得る可能性があるが, その臨床応用に向けては ”高い物質透過性(アルミニウム以外のあらゆる物質/組織を透過/拡散する)”, “難溶性(大気圧下1.6ppmの低溶解性)”, “可燃性(起爆性)”という3大障壁を克服する必要がある. 我々は, 無菌的に, 安全に, 安価にH2を点滴用製剤に浸透させる”非破壊水素含有法”を利用して, 飽和/可燃濃度以下の1.0ppmの水素含有液を作成し, 移植用臓器に体外で血管内注入するHyFACS法(Hydrogen Flush After Cold Storage: 体外水素注入法)を考案した. ラット肝の冷保存/温再灌流モデルを用いてHyFACS法のIRI保護効果を定量的/形態学的に評価したところ, 再灌流後の肝逸脱酵素値, HMGB-1値, ATP産生能, 門脈灌流圧に有意な改善を認めた. また興味深いことに, 門脈からのHyFACSにより肝類洞系が, 肝動脈HyFACSにより肝内胆管の障害が, 機能的にも形態学的にも有意に軽減した。本成果は専門誌に掲載された(Liver Transpl. 2018 Nov;24(11):1589-1602). 同様に, ヒト心房性利尿ペプチドhANPの移植肝血管内皮保護効果につき検証した. 体外保存中の臓器への薬剤添加であり, 循環作動薬であっても用量増加は容易で, hANP添加は心停止後摘出肝の臓器障害の有意な抑制を示した(Transplantation. 2019 Mar;103(3):512-521).
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