研究課題/領域番号 |
17H04281
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小寺 泰弘 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10345879)
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研究分担者 |
神田 光郎 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (00644668)
小林 大介 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (30635595)
田中 千恵 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (50589786)
林 真路 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (70755503)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 胃癌 / 腹膜播種 / 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
胃癌の予後に大きく関わる再発転移形式として腹膜転移、リンパ節転移、血行性転移という全く性質が異なるがどれも重要な3つの転移経路が存在することで知られる。なかでも腹膜播種は、胃癌で特に多く見られ、かつ難治な転移再発形式である。本研究では、各種転移形式ないしは転移経路に特異的な分子生物学的機序の解明を通じ、腹膜転移に特化した分子標的とその治療薬を見出すことを目標としている。また、阻害することで治療効果が期待できる治療標的分子を開発すると同時に、感受性のある患者の選別に資するコンパニオン診断法が開発できれば意義深い。Stage IIIで同一の術後補助化学療法を受けていながら再発形式の異なる4群の胃癌原発巣組織を対象としたtranscriptome解析を行った結果、腹膜播種再発例のみで有意な発現亢進を示した分子としてsynaptotagmin 13 (SYT13)を同定した。前年度には胃癌細胞におけるSYT13の機能を知るべくsiRNA法によるノックダウンを行い、胃癌細胞株の浸潤能および遊走能が有意に低下することを明らかにした。さらに、臨床検体におけるSYT13発現解析を実施し、胃癌原発巣組織中のSYT13 mRNA発現は臨床病期そのものには依存せず、腹膜播種再発もしくは同時性播種と有意に相関することを見いだした。組織中SYT13発現は免疫組織化学染色法でも判定しえた。平成30年度は、マウス腹膜播種モデルを作成し、コントロール群とsiRNA腹腔内投与群の群間で、体重、腹囲、in vivo imagingによる腹膜播種形成量、生存期間を比較解析した。その結果、siRNA腹腔内投与群では腹膜播種形成が阻害され、生存期間が有意に延長した。一方で、体重減少等の健康被害は認めなかった。翌年度の準備として、抗原性、親水性を推測しまず抗SYT13ポリクローナル抗体を作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、計画どおりにSYT13阻害の胃癌腹膜播種治療効果の検証と阻害薬創製を進めた。in vitro実験ではSYT13ノックダウン時に遊走能および浸潤能の強い抑制効果を認めており、SYT13阻害で遊離癌細胞を足止めし腹膜結節形成を阻害するコンセプトをin vivoで実証した。ヒト胃癌細胞の腹腔内播種によりマウス腹膜播種モデルを作成し、コントロール群とsiRNA腹腔内投与単独群(週2回)の 群間で体重、腹囲、in vivo imagingによる腹膜播種形成量、生存期間を比較解析したところ、siRNA腹腔内投与群では腹膜播種形成が阻害され、生存期間が有意に延長した。腹腔内投与を見据えた際、腹膜透過性の観点から、腹腔内の癌細胞に長時間作用し、かつ腹膜通過を経た全身移行による有害事象を最小限にするためには分子量の大きい抗体医薬が理想的である。SYT13は細胞膜上に存在する膜タンパクであり、核酸医薬以外のアプローチとしてSYT13特異的中和抗体を試みていく予定である。そこで解析ソフトを用いて抗原性、親水性を推測しまず抗SYT13ポリクローナル抗体を作製した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、計画どおりに抗SYT13中和抗体の胃癌腹膜播種抑制効果を評価する。まず、胃癌細胞株数種(SYT13発現度の異なるもの)を対象にin vitroでの細胞増殖阻害効果を調べる。ついで、スクリーニングを経た抗SYT13中和抗体の腹膜播種治療効果をin vivo実験で評価する。投与経路については、将来的な臨床試験への展望を考慮すると、臨床試験段階でのデータが存在するPTX併用腹腔内投与が効果・安全性の面で有望であると考えている。前年度の研究デザイン同様に、SYT13阻害による腹膜播種治療効果の評価のため、コントロール群と抗SYT13抗体腹腔内投与群の群間で、IVISによる腹膜播種形成量、生存期間を比較解析する。同時に、コンパニオン診断法開発のためのSYT13発現解析を行う。300例の胃切除症例から得た組織を対象に、組織中SYT13発現量を定量的PCR法および免疫染色法により定量し、SYT13発現量と腹膜再発・予後、各種臨床病理学的因子との相関を検討する。特に、治癒切除後の早期腹膜播種再発例と、長期無再発生存例の間の発現パターンの相違に着目する。これにより、SYT13が標的分子であると同時に治療対象を選別するコンパニオン診断法となるか否かを検証する。さらに、腹水検体を対象にSYT13 mRNA量を定量し、肉眼的腹膜播種や細胞診結果、腹膜播種再発の有無との相関を解析する。腹水検体からの診断が可能となれば、腹腔内投与治療の適応判断および効果判定に有用なツールとなりうる。
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