研究課題/領域番号 |
17H04282
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石井 秀始 大阪大学, 医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
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研究分担者 |
今野 雅允 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (80618207)
小関 準 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (20616669)
川本 弘一 大阪大学, 医学部附属病院, その他 (30432470)
西田 尚弘 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50588118)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 癌 / 臨床 / 外科 / 核酸 / トランスレーショナルリサーチ |
研究実績の概要 |
体液中に分泌されるマイクロRNA(小さな非コードRNA)は疾患のバイオマーカーとして有用である。私達は、質量分析法により、マイクロRNA配列上の特定部位のメチル化修飾を計測する新技術を世界で初めて開発した。私達のパイロット研究で、膵癌を含む消化器癌の早期診断において、従来のバイオマーカーを凌駕する高い性能が得られている。マイクロRNAのメチル化は、細胞組織のエピゲノム病態を反映しているため、高精度に得られた計測結果は、早期診断やサブクラス分類にきわめて有用である。本計画ではこの『コア技術』を活用して、消化器癌や他の疾患を含めて幅広く検討し、『データ科学』に基づく次世代医療のバイオマーカーとして確立する研究を実施した。
平成29年は、マイクロRNA配列上の特定部位のメチル化修飾を計測する技術の精度を確立して、細胞株、手術材料、さらには低侵襲で得られるリキッドバイオプシーからのサンプルを用いて、計測を進めた。臨床材料は順調に収集が進捗し、順次解析を実施した。特に、体内の固形腫瘍の部分と、末梢血から得られるエクソゾーム内のマイクロRNAとを比較して、両者のデータからコンパニオン診断としての性能を検討することができた。このように臓器横断的に得られるRNAのメチル化の情報を元にして、プロファイリングの幅を広げて生体の恒常性をプロファイルする研究を進め理ことができた。さらに、がんに特異的な情報を得るためにエクソゾームの表面タンパク質の解析も進めることにより、数個の特異的なマーカーを用いて濃縮、解析し、高精度のがん診断に応用することを順調に進めた。現在、手術の前後での病態を鋭敏に反映したバイオマーカーであるかどうかの性能の検証を進めており、現在までの結果では期待通りのデータを得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画では、計画開始までの私達のパイロット研究を踏まえて、消化器癌のデータを蓄積することを実施したが、平成29年度の段階で、目標の概ね半数の症例の解析を進めるとともに、さらに同一症例の追跡調査を進めることにより、手術の前後での病態を鋭敏に反映したバイオマーカーであるかどうかの性能の検証まで発展させて行うことができた。さらに、本研究領域の内外の進捗を踏まえて、病態解析のための動物モデルを作成してメカニズム解析を進めた。すなわち、RNAメチル化に関わる酵素の遺伝子改変マウスと発がんマウスを掛け合わせて、個体レベルでの臓器横断的なRNAのメチル化修飾の重要性を明らかにしつつある。次年度以降も継続して研究し、特に腫瘍組織の癌部と間質部における微小環境に応答したRNAのメチル化制御の機構を明らかにして、バイオマーカーを創生する分子機能の解明や、バイオマーカーの高精度化に向けて研究を展開しつつある。
特に膵癌は極めて予後不良であり、その期診断は喫緊焦眉の国民的課題である。低侵襲に体液(唾液、血清等)から早期膵癌の診断バイオマーカーとして確立することのより得られたデータは、ステージ別の予後予測、有害事象の予測、患者の層別化、サブクラス分類に応用できることが期待される。さらに、『データ科学』を通じて産学連携を深め、質量分析に依る新しい検査事業やデータ評価等、新産業を振興することができると期待される。
このように、本研究では、患者の血清からマイクロRNAを抽出し、世界初の『コア技術』である核酸に特化した質量分析法でメチル化修飾を計測することを推進し、平成29年度はその基盤部分を整備した。消化器癌から他疾患に研究を進めて国際基準に合致したバイオマーカーとして性能を検証し、さらに細胞の代謝が関わる他疾患で新たにマイクロRNAを加えて検討し、普遍性の高い新技術として開発していく。
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今後の研究の推進方策 |
私達の消化器癌でのパイロット研究をもとにして、他の癌代謝や癌幹細胞が関わる乳癌、肺癌などでも検討し、さらに非腫瘍性疾患も含めて検討して、波及効果と普遍性を明らかにする。機能的には、マイクロRNAのアデニンの修飾がRNA結合蛋白HuRを介して安定性(Decay)への関与を示唆するパイロット研究によるデータを得ており、本研究で生命の恒常性の維持機構を臓器横断的に理解し、またその破綻としての腫瘍化における役割を明らかにすることが期待される。 特に、動物個体レベルでの解析により、従来では知られていなかったエピトランスクリプトームの機能が明らかとなり、疾患の新たな診断法と革新的な治療法の開発に向けて大きく展開することができる。 さらに成果の社会への還元を加速化するために、大学発ベンチャーなどの産学連携の体制を利用しながら、成果の還元を積極的に推し進めていく計画である。特に、本基盤B研究でのコンセプトは、周辺の若手の研究のプロジェクトにも良い影響をあたえ、我が国の将来を担う人材の育成とライフサイエンスの信仰に向けて継続的に発展させる計画である。 具体的な学術成果の公表として、知的財産などの整備を経て、積極的に成果をデータベース(KAKEN)などで広く公開する。中心となる論文の公表の手段は、査読のある高いインパクトの英文誌を第一義とし、国際学会、国際シンポジウムでの積極的な発表に務める。また、若手の育成の観点からは、英語化とともに国内での学会や情報交換の場を豊富に準備して整える。また、アウトリーチ活動として、オープンキャンパス、出身高校での講演、市民講座等の複数の機会を通じで専門家以外の国民への情報発信を行っていく。広く国民から科学技術に対する強い信頼を得る上で、アウトリーチ活動を積極的に進める。
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