研究課題
大動脈瘤は破裂時の死亡率が高いため、瘤の発生や成長を早い時期に阻止、遅延させる有効な治療法が必要となる。申請者はこれまでに、独自に作製した大動脈瘤モデルマウス(SMKO)の解析により、弾性線維を構成する細胞外マトリクスの異常が血管壁の構造破壊を引き起こし、瘤形成の一因となることを明らかにしてきた。さらにこのマウスを用いた経時的プロテオミクスの解析から、瘤形成の初期段階で、血管壁のメカニカルストレス応答因子である、アンギオテンシン変換酵素(ACE)や転写因子Egr1、マトリセルラータンパク質トロンボスポンディン(TSP1)とその下流因子スリンゴショット1(Ssh1)の発現が異常に上昇することを見出した。また、ACE上昇によるアンギオテンシンシグナルを阻害すると大動脈瘤の形成が著明に抑制されることを見いだした。そこで本研究では、「大動脈壁のメカニカルストレス応答機構の破綻が大動脈瘤を形成する」という仮説の下、その詳細なメカニズムを解明することで、新たな大動脈瘤阻害薬創出の基盤を構築することを目的とする。すなわち、1)TSP1を標的とした大動脈瘤治療に向けた治療的戦略を確立、2)Ssh1の大動脈瘤における生化学的特性と治療目的としての基盤を確立、3)大動脈壁のメカニカルストレス応答細胞の可視化と網羅的遺伝子発現解析を明らかにする。初年度は、SMKOからTSP1を欠損させたマウス(DKO)で大動脈瘤の発症が抑制されること、その大動脈壁では弾性繊維と平滑筋細胞との接着が改善され、ヤング率で表される物質的性質が改善されていることを明らかにした。また、Ssh1欠損マウスを確立し、表現型解析を開始した。メカニカルストレス応答細胞の可視化は、Egr1-Venus トランスジェニックマウスを用いて、TACによる圧負荷下での血管壁のVenous 陽性細胞を見出した。
2: おおむね順調に進展している
目的1)のTSP1に関して、マウス大動脈瘤でのTSP1阻害効果を詳細に記載したばかりではなく、ヒトの大動脈瘤サンプルの解析が順調に進んでおり、すでに70例以上の検体が集まった。マウス実験と並行して、ヒト大動脈瘤のサブタイプに特化した生化学変化を解析中である。Ssh1欠損マウスも予定通り作製に成功し、解析を進めている。Egr1-Venus トランスジェニックマウスを用いて、Venus 発現細胞を確認した。
平成30年度は、1)TSP1が大動脈瘤の発症を阻害するメカニズムをさらに細胞レベルで明らかにする。平滑筋細胞に伸展刺激を加えた際のTSP1の細胞内・外の局在と機能解析を進めると共に、ヒトサンプルでTSP1をはじめとする、メカニカルストレス因子の解析を行う。さらに、TSP1の中和抗体もしくはsiRNAを用いたマウスでの治療効果を検討する。2)Ssh1欠損による大動脈瘤に対する抑制効果の有無を、SMKO;Ssh1-null マウスを用いて検討する。3)Egr1レポーターマウスを用いて、大動脈瘤におけるメカニカルストレス応答細胞を可視化すると共に、SMKO-Egr1-null マウスを作製し、大動脈瘤に対する作用を調べる。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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http://saggymouse.tara.tsukuba.ac.jp