研究課題
大動脈瘤は破裂時の死亡率が高いため、瘤の発生や成長を早い時期に阻止、遅延させる有効な治療法が必要となる。申請者らが独自に作製した大動脈瘤モデルマウス(SMKO)の解析を通じ、弾性線維を構成する細胞外マトリクスの異常が血管壁の弾性板の破壊と同時に平滑筋細胞のメカノセンシングの異常を誘発し、瘤形成に至ることを報告してきた。そこで本研究では、「大動脈壁のメカニカルストレス応答機構の破綻が大動脈瘤を形成する」という仮説の下、その詳細なメカニズムを解明し、新たな大動脈瘤阻害薬創出の基盤を構築することを目的とする。すなわち、1)TSP1を標的とした大動脈瘤治療に向けた治療的戦略を確立、2)Ssh1の大動脈瘤における生化学的特性と治療目的としての基盤を確立、3)大動脈壁のメカニカルストレス応答細胞の可視化と網羅的遺伝子発現解析を行う。2018年度は、血管壁のメカニカルストレス応答因子の一つとして我々が同定した、マトリセルラータンパク質トロンボスポンディン1(TSP1)の発現制御機構を詳細に検討した。ラット平滑筋細胞を用いた実験では、周期性伸展負荷やアンギオテンシンII の添加により、TSP1の発現が顕著に抑えられること、また転写因子であるEarly growth response gene 1(Egr1)をノックダウンさせるとTSP1の上昇が抑えられることを報告した。さらに、大動脈瘤初期では、TSP1は内皮細胞と内側に近い平滑筋細胞に強く発現すること、上行大動脈と下行大動脈では発現が上行部のみに見られることなどを見出した。また、SMKOからTSP1を欠損させたマウス(DKO)では、大動脈瘤の発症が抑制されること、ヒト胸部大動脈瘤病変でも、TSP1が有意に上昇していることを見出した。メカニカルストレス応答細胞の可視化は、TACによる圧負荷下での血管壁のVenous 陽性細胞ではなく、TSP1の発現を指標とした。
2: おおむね順調に進展している
目的1)「TSP1を標的とした大動脈瘤治療に向けた治療的戦略の確立」、に関して、SMKOマウス大動脈瘤でTSP1の発現を抑制すると、弾性線維の断裂が改善し、大動脈瘤の発症が抑止された。弾性線維―平滑筋細胞の連結部(エラスチンエクステンション)も改善し、細胞内のメカニカルストレス応答因子の異常上昇も野生型と同じレベルまで回復した。これにより、TSP1阻害による大動脈瘤の抑制効果を詳細に記載した。また、ヒトの胸部大動脈瘤サンプルの解析を行い、TSP1が有意に病変で上昇していることも見出した。目的2)「Ssh1の大動脈瘤における生化学的特性と治療目的としての基盤の確立」では、Ssh1欠損マウスの作製に続き、SMKOとのダブルノックアウトマウスも予定通り作製した。現在までの解析では、我々の予想と異なり、Ssh1を欠損しても大動脈瘤は抑止されないことがわかった。また、Ssh1マウスはヘテロ接合体でも、野生型と比べて明らかに死亡率が高いこともわかっており、Ssh1は個体の生存に関与していることが示唆された。目的3)「大動脈壁のメカニカルストレス応答細胞の可視化と網羅的遺伝子発現解析」では、Egr1-venus トランスジェニックマウスのトランスジーンの発現がサイレンスされてしまったので、方針を変更した。メカニカルストレス応答因子であるTSP1が、生体内での圧負荷や血流の停止に反応して発現が増加することがわかった。とくに、大動脈の圧負荷では血管平滑筋細胞に、頸動脈の結紮では内皮細胞に発現の増加が観察された。
平成31年度は、1)TSP1のメカニカルストレス応答経路を、分子生物学的に明らかにする。さらに、TSP1の中和抗体もしくはsiRNAを用いたマウスでの治療効果を検討する。2)SMKO;Ssh1-null マウスの解析をすすめ、Ssh1ヘテロマウスの致死の原因を確かめる。3)大動脈瘤におけるEgr1の上流シグナルを同定し、その因子の発現を制御することで、大動脈瘤の抑止をはかる。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (2件)
Cell Signaling
巻: 58 ページ: 65-78
10.1016/j.cellsig.2019.02.008
Matrix Biology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1016/j.matbio.2019.03.001.
巻: 74 ページ: 5-20
10.1016/j.matbio.2018.04.014.
Cardiovascular Research
巻: 114(13) ページ: 1776-1793
10.1093/cvr/cvy150
Circulation Research
巻: 123(6) ページ: 660-672
10.1161/CIRCRESAHA.118.313105
http://saggymouse.tara.tsukuba.ac.jp
https://trios.tsukuba.ac.jp/researcher/0000003650