研究課題
平成29年度から、ビーグル犬を使った実験を開始した。温虚血モデルとしてラットでの先行研究と同様に、左肺門部クランプモデルにて、水素水の胸腔内灌流による効果を検討した。温虚血時間は3時間とし、温虚血中に胸腔内に水素水を灌流させ、再灌流後右肺動脈をクランプして左肺の評価を行った。対照群には生理食塩水を胸腔内に灌流させた。結果は肺機能・酸素化能を含む生理学データおよび肺組織学的検査で対照群並びに水素群において有意な差は認めなかった。原因としては胸腔内に灌流させる水素水の量が少ないこと、ビーグル犬の肺が大きいため胸膜を透して、十分に水素が肺中心部まで拡散しないことが考えられた。水素水の胸腔内灌流量を増加し、再度実験を行うも2群間に差は認めなかった。そこで、冷虚血モデルとして、ビーグル犬の左片肺移植モデルを用いて、水素含有臓器保存液による肺のフラッシングおよび浸漬による肺保存の効果を検証する実験を開始した。冷虚血時間は検討を重ねて、23時間に設定した。水素濃度を維持するためにアルミバックに肺を入れて保存した。肺のフラッシングに関しては、ドナー犬の手術の際に順行性、逆行性に還流させ、23時間後の移植の直前に再度順行性、逆行性に還流して、移植を行った。移植後は、グラフトが再灌流してから45分後に対側の肺動脈を遮断して、グラフト肺の機能評価を行った。予備実験を経て、本実験を開始した。
2: おおむね順調に進展している
冷虚血モデルとして、ビーグル犬の左片肺移植モデルを用いて、水素含有臓器保存液による肺のフラッシングおよび浸漬による肺保存の効果を検証する実験を開始し、予備実験を重ね、条件設定を行った。臓器保存液中の水素濃度を長時間にわたって維持するために、浸漬保存に用いる臓器保存液の量を増やして経過を観察し、最終的な条件を以下のように設定した。冷虚血時間を23時間に設定し、肺のフラッシングに関しては、ドナー犬の手術の際に順行性、逆行性に還流させ、23時間後の移植の直前に再度順行性、逆行性に還流して移植を行った。グラフト肺の浸漬に用いる臓器保存液は、2.5Lに増量した。移植後はグラフトが再灌流してから45分後に対側の肺動脈を遮断して、グラフト肺の機能評価を行った。計4時間再灌流し、評価を行った後、犠牲死させ、肺検体、病理検体を採取した。本実験では、実験群はコントロール群と水素群の2群で設定し、コントロール群はフラッシングおよび浸漬を通常のET-KYOTO液(日常臨床で用いている臓器保存液)で行い、水素群ではそれらを水素含有ET-KYOTO液で施行した。各群5例ずつ実験を施行した。結果として、再灌流中の動脈血酸素分圧は水素群で有意に高値であり、二酸化炭素分圧は水素群で有意に低値であった。肺の動的コンプライアンスは水素群で有意に高値であり、移植されたグラフト肺機能が保たれていることが示唆された。肺水腫の程度を評価するため肺の湿乾重量比を計測したところ、有意差には至らなかったが水素群で低値である傾向を認めた。グラフト肺障害の程度を病理組織検体で評価したところ、水素群で有意に肺障害が弱く、アポトーシスを起こしている細胞の数も有意に水素群で少なかった。これらの結果から、水素含有臓器保存液の肺保存効果が示唆された。これらの結果を2019年4月の国際心肺移植学会(アメリカ、オーランド)にて発表した。
冷虚血障害モデルでの結果を論文化する予定である。また、冷虚血傷害モデルでの結果を受けて、今後はドナー不足解消を目指して温虚血傷害モデルである心停止ドナーモデルでの実験を重ねる計画である。
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