以下三つのテーマについて研究を遂行した。 テーマA) 早期の肺腫瘍増大速度に影響する遺伝子の同定:肺腺腫(GGO)を経て形成した肺腺がん手術検体107例の次世代シークエンサーを用いた50-150遺伝子のターゲットシークエンスやnCounter assayを行い、ドライバー遺伝子およびドライバー遺伝子異常との併発が知られるがん関連遺伝子の変異情報を取得した。当該検体では、FFPE試料から得られるゲノムDNAの質が低い傾向にあり、変異アレル頻度を考慮しながら確定を行った。結果としては、一般肺腺がんよりもEGFRなどのドライバー変異の頻度が低い傾向にあった。また、当該例の血液DNAをNCCバイオバンクより払い出し、肺腺がん感受性遺伝子座の多型の遺伝子型を決定した。今後、リスクとの関連解析を行う予定である。 テーマB) 早期がん形成を担う変異シグネチャーの同定:肺腺腫から肺腺がんに移行した凍結検体および上皮内がん(CIS)の全エクソームシークエンス解析を行い、体細胞遺伝子変異を検出するとともに、変異signature解析を行った。その結果、上皮内がんでは、遺伝子変異数が少なく(< 1 mutation/Mb)、また、これまでの一般肺腺がんでみられた変異シグネチャーが観察されたが、喫煙に関連したシグネチャーが低頻度であることが明らかになった。 テーマC)早期がん形成に関わるドライバー遺伝子、併発するがん関連遺伝子の同定:一般肺腺がんと上皮内がんの遺伝子変異の特徴を比較した。その結果、上皮内がんでは、遺伝子変異数が少なく、TP53等の遺伝子変異が低頻度であることを明らかにした。一方、ドライバー遺伝子異常は、全体の75%にみられ、当該遺伝子異常が肺発がんに中心的な役割を果たしていることを再確認した。
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