脳血管疾患の患者数は100万人を超え、その後遺症による運動麻痺は要介護原因の1位を占める。その他、頭部外傷や筋萎縮性側索後遺症(ALS)など皮質脊髄路を形成する大脳運動ニューロンの障害のために非可逆的な運動機能低下に陥る患者は多く、患者福祉はもちろん医療経済的にもその治療法開発は急務である。本研究では、細胞移植と遺伝子治療の相乗効果により皮質脊髄路を再構築し、運動機能低下に対する再生医療技術の確立を目指す。 これらの背景に基づき、達成目標は、①ヒトiPS細胞由来大脳運動ニューロンの移植による皮質脊髄路の再構築、②遺伝子治療によるホスト脳環境の至適化であり、③これらの組み合わせによる相乗効果を目指す。この成果は脳血管障害患者の症状改善だけでなく、全ての脳機能障害患者の症状改善に対する本質的かつ革新的治療アプローチとなる可能性を含んでいる。 2018年度はヒト多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)からの大脳オルガノイドに成功した。神経誘導環境下で浮遊培養を行うと、初期大脳様の層状構造が観察され、免疫組織学的解析によりventricular zone、intermediate zone、cortical plateであることが確認された。この成果は国際誌に採択され、2019年度に発刊予定である。また、この大脳オルガノイドをマウス脳に移植したところ、脊髄への軸索伸展が認められた。現在、分化誘導のどの時期の細胞が移植に適しているかを検討中である。 また、マウス胎仔脳を成体マウス脳に移植しさらに運動をさせることによって、運動をしない場合に比べて脊髄への軸索伸展が促進されることを明らかにした。この成果も国際誌に採択され、2019年度に発刊予定である。
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