研究課題
免疫checkpoint阻害剤の著明な治療効果が明らかになり、癌の免疫療法が注目されているが、特殊な免疫学的環境に発生した悪性グリオーマに対する治療効果は限定的であり、その要因の究明と打開策が求められている。理論的に、腫瘍の免疫原性が低い場合、腫瘍特異的 T 細胞の誘導が不充分であるため、免疫checkpoint阻害単独では有効でないと考えられる。そこで、本研究では、腫瘍抗原特異的な T 細胞を強力に誘導する革新的ワクチンの開発を目的として、グリオーマのneoantigenとkiller/helper epitope long peptideを同定し、免疫 checkpoint阻害剤との併用療法の臨床応用を目指す。本年度は、マウスグリオーマモデルに対してウイルス治療後のリンパ球を用いて同定された腫瘍抗原が、マウスグリオーマ特異的に免疫誘導されるneoantigenであること、かつ遺伝子変異により抗原性を獲得していることを確認した。つぎに、マウスグリオーマneoantigen由来のkiller epitopeペプチドと、現在、我々が悪性神経膠腫に対して臨床試験を行っている腫瘍血管新生に関連するvascular endothelial growth factor receptor (VEGFR)由来のマウスkiller epitopeペプチドを合成した。マウスグリオーマモデルを用いて、それらのペプチドを併用投与することにより、新たなneoantigenワクチン療法の有効性を明らかにした。また脳腫瘍患者組織における免疫checkpoint関連分子(PD1、PDL1)の発現、免疫抑制性のT細胞およびマクロファージを、腫瘍中心部、境界部、正常部に分けて解析を行ったところ、腫瘍中心部と周辺部では、免疫状態が大きく異なることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
マウスグリオーマneoantigenのkiller epitopeペプチドと腫瘍血管関連分子vascular endothelial growth factor receptor (VEGFR)のkiller epitopeペプチドを組み合わせた新たなワクチン療法を開発し、マウスグリオーマモデルに対する有効性を明らかにすることに成功した。本年度の目標はおおむね達成することができた。
①脳腫瘍neoantigenの免疫反応解析昨年度に引き続き、neoantigenの解析を行い、候補分子を同定する。同定されたneoantigenの予測アミノ酸配列から、HLA結合性予測プログラム(BIMAS)とプロテアソーム切断予測プログラム(PAProC)を用いてHLA-A24およびHLA-A2結合性エピトープペプチドを推測し、結合性の高い候補ペプチドを合成する。健常人からリンパ球を分離し、合成したCTLエピトープペプチドを用いてin vitroで刺激後、グリオーマ特異的なCTL誘導能を解析して、ワクチンに有効なHLA-A24およびHLA-A2結合性ペプチドを同定する。また、同定されたペプチドによる免疫誘導能を定量的に評価するために、同定ペプチドを用いてテトラマーおよびELISPOT解析法を確立し、誘導されたCTLとの結合性、検出度を解析する。②腫瘍抗原ワクチンと免疫checkpoint阻害による複合免疫療法の治療解析マウス脳腫瘍幹細胞(BCSC)およびグリオーマモデルを用いて、これまで我々が同定した脳腫瘍抗原および同定されたneoantigenと免疫checkpoint阻害剤との複合免疫療法の有効性を検証する。同定された腫瘍抗原投与法の最適化を行うため、腫瘍抗原ペプチドと各種アジュバントの組み合わせによるワクチンを投与後、一定期間後にCTL解析を行い、最も有効なワクチンの投与法を決定する。次にマウスBCSCモデルを用いて、最適化されたワクチン投与と各種免疫checkpoint阻害剤併用後のCTL解析、IVIS imaging systemを利用したin vivo腫瘍イメージングおよび生存期間を解析して、治療効果を検証する。
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