研究課題/領域番号 |
17H04306
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
戸田 正博 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (20217508)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 悪性神経膠腫 / 免疫チェックポイント / PD-1 / VEGFR / ネオアンチゲン |
研究実績の概要 |
本研究は、特殊な免疫学的環境に発生する悪性神経膠腫に対して、腫瘍抗原特異的なT細胞を誘導するワクチンと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせ相乗効果を生み出す革新的治療戦略の樹立を目指すものである。 まず、我々は、ヒト及びマウス悪性神経膠腫の腫瘍血管内皮細胞、腫瘍細胞、及び免疫抑制性の制御性T細胞にVEGFR1やR2が発現することを同定した。その後、VEGFR、及びマウスグリオーマ細胞株GL261で同定されたNeoangtigen (GARC-1) を標的するエピトープペプチドと抗PD-1抗体を組み合わせた複合免疫療法を行い、単独治療に比して著明な生存期間の延長を認めた。また、抗PD-1抗体投与の最適なタイミングを評価した結果、複合免疫療法群では、腫瘍内にCD8やPD-1陽性細胞が良好に動員されていることも確認した。さらに、マウスグリオーマ幹細胞株TSGに対する解析も行い、上記GL261以上に腫瘍細胞自身に特にVEGFR2が強発現することを確認し、VEGFR2ターゲットな治療戦略がグリオーマ幹細胞をもカバーし得る可能性が示唆された。 一方、ヒト悪性神経膠腫患者を対象としたVEGFRワクチン療法の臨床試験で得た貴重なワクチン投与前後の同一患者検体を収集・解析し、上記in vivo modelで認めた様に、腫瘍内にCD8やPD-1陽性細胞が良好に動員されていることも確認した。さらに、血管内皮細胞のVEGFR1/R2の発現の減弱及び、一般的に多層化した血管内皮細胞を多く認める悪性神経膠腫内で、単層化した血管内皮細胞を認める様になり、血管内皮細胞のNormalizationを確認することができた。次年度は、さらに多岐にわたる腫瘍関連免疫環境の変化も評価したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、VEGFR及びNeoangtigen (GARC-1) を標的するエピトープペプチドと抗PD-1抗体を組み合わせた複合免疫療法が、各々の単独療法に比して、効率的にCD8陽性T細胞を動員することをフローサイトメトリー及び組織学的解析により確認することができた。抗PD-1抗体の投与タイミングの最適化にはやや時間を要したものの、その結果生存期間の延長にも成功した。さらに in vivo modelで認めた組織所見を、ヒト悪性神経膠腫患者を対象としたVEGFRワクチン療法の臨床試験で得た貴重なワクチン投与前後の同一患者検体でも評価することができた。 また、マウスグリオーマ幹細胞株自身に特にVEGFR2を強発現することで、VEGFRワクチン療法が、腫瘍血管内皮細胞だけでなく、グリオーマ幹細胞をもカバーする可能性が示唆された。 以上より、研究計画はおおむね順調に遂行したと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、VEGFRを標的するエピトープペプチドと抗PD-1抗体を組み合わせた複合免疫療法がマウスグリオーマ細胞株に対して生存期間の延長効果を示した。そこで次年度は、悪性神経膠腫の難治性の根源である、マウスグリオーマ幹細胞株(TSG株;Ink4a/Arf KOマウス由来のNSCにHRas-V12-IRES-GFP をレトロヴィルスベクターのシステムを用いて導入し、作製したグリオーマ起源細胞を元にした細胞株。)に対する治療効果、免疫細胞誘導効果を評価する。 ヒト悪性神経膠腫患者に関しては希少疾患ゆえ、患者検体収集は容易ではないが、引き続き症例を蓄積する。その中で、ヒト悪性神経膠腫患者を対象としたVEGFRワクチン療法の臨床試験で得た貴重なワクチン投与前後の同一患者検体に関しても、さらに収集・解析しCD8+細胞のみならず、様々な免疫抑制性細胞を含めた腫瘍関連免疫環境の変化も評価し、統合的に本複合免疫療法の作用を確認する。
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