研究課題/領域番号 |
17H04314
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
安達 伸生 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 教授 (30294383)
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研究分担者 |
味八木 茂 広島大学, 病院(医), 講師 (10392490)
石川 正和 広島大学, 医歯薬保健学研究科(医), 助教 (60372158)
中佐 智幸 広島大学, 病院(医), 助教 (60467769)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 関節軟骨 / microRNA / エクソソーム |
研究実績の概要 |
広範囲軟骨欠損に対し、自家培養軟骨細胞移植術が行われている。しかし、この治療法には、①正常軟骨組織を400mg採取しなければならない、②採取した軟骨組 織から軟骨細胞を単離・培養しなければならない、③軟骨細胞によっては、増殖能、軟骨基質産生能が低いものがある、④軟骨採取と培養した軟骨様組織を移植 する2段階手術が必要、⑤4週間培養した軟骨様組織内に十分な軟骨基質が存在していない、⑥軟骨修復のメカニズムが不明といった問題点がある。このような問 題点を解決するため、我々は、より軟骨基質を多く含有し、広範囲軟骨欠損に対応可能で、1回の手術で移植できる移植軟骨を作製することを目指し、以下の研究 を行った。人工膝関節置換術の際に切除した軟骨からメスを用いて約2mmの軟骨片を作製しアテロコラーゲンと混合した。対照群として、軟骨細胞をコラゲナー ゼ・トリプシン処理を行い単離し、アテロコラーゲンに包埋した。3週間培養した後、切片を作製し、サフラニンO染色、免疫染色を行った。軟骨片を培養した群 では、単離した群と比較し、有意に多くの細胞をゲル内に認めた。この培地中に含まれるRNAを抽出し、分泌microRNAの発現解析を行っ た。軟骨片の群では、骨形成や軟骨分化に関与するmicroRNAが多く培地中に含まれていた。これらの結果から、従来の自家培養軟骨細胞移植術のように軟骨を酵 素処理し、軟骨細胞を単離してアテロコラーゲンゲル内に包埋するより、軟骨片をゲルに包埋する方が、ゲル内での細胞増殖能は高く、また軟骨下骨・軟骨に有利に働くmicroRNAを分泌していることがわかった。日本白色家兎の大腿骨滑車部に骨軟骨欠損を作製し、アテロコラーゲンに包埋した軟骨片を移植したところ、良好な軟骨修復を認めた。これらの結果から培養の必要ない軟骨片の移植が有用であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、広範囲軟骨欠損に対し、従来より行われている自家培養軟骨細胞移植術の欠点を克服した新たな軟骨修復術の確立を行うものである。つまり培養を必要とせず、一期的に完結する手術方法であるが、その有効性・妥当性をin vitro、in vivoの研究を行うことで実証していく。この軟骨修復術は、非荷重部の正常軟骨を採取し、細切した後、足場となるアテロコラーゲンに包埋して軟骨欠損部に移植するというものである。細切した軟骨片から軟骨細胞がアテロコラーゲン内に遊走・増殖し、軟骨基質を産生していくことで、広範囲軟骨欠損にも対応できる手術方法である。これまで、ヒト軟骨を用いて軟骨片と単離した軟骨細胞がアテロコラーゲン内での遊走・増殖能を検討し、細切した軟骨片の有効性を証明した(Tsuyuguchi Y, Adachi N et al. Cartilage 2018 in press)。また、日本白色家兎に骨軟骨欠損を作製し、アテロコラーゲンに軟骨片を包埋して移植した。この実験にて、広範囲軟骨欠損に対するアテロコラーゲン包埋細切軟骨片移植の有効性を示した(Matsushita R, Adachi N et al. American Journal of Sports Medicine 2019 in press)。この他、単離した軟骨細胞と細切した軟骨片を培養し、その培養液に分泌されたmicroRNAを解析し、骨形成や軟骨分化にも関与するmicroRNAが軟骨片を培養した方が多く分泌されている傾向があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
細切軟骨片を軟骨修復に使用する際、より大きな軟骨欠損部に移植することや、年齢等の影響により軟骨片からの細胞遊走が少ないことも考え、細切軟骨片からより多くの軟骨細胞が遊走し増殖できる因子を組み合わせることも検討する。具体的には、骨髄間葉系幹細胞(MSC)から分泌されるエクソソームを組み合わせることを考えており、今後は、細切軟骨片をアテロコラーゲンに包埋し、MSC由来のエクソソームを添加し細胞遊走・増殖を評価していく。また、in vivoでの有効性を証明するためエクソソームを添加した細切軟骨片を日本白色家兎の骨軟骨欠損に移植し、治療効果を評価する。さらに臨床応用へ向けて、ミニブタの大腿骨滑車部に軟骨欠損を作製し、アテロコラーゲン包埋細切軟骨片を移植してその有効性を示す。
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