研究実績の概要 |
ⅰ) C5aアンタゴニスト投与による脊髄損傷マウスの炎症環境の変化 RNAシーケンスを用いて、脊髄損傷後にC5aアンタゴニスト(以下、C5aRA)を1mg/kg連日投与した際の脊髄内の微小環境の変化を評価した。コントロールとしてC5aRAの代わりにPBSを投与した個体を用いた。結果、脊髄損傷後12時間で多数の炎症性サイトカインが抑制されており、さらに脊髄損傷後4日目でC5aRA投与によりアポトーシスマーカー・好中球の抑制も認めた。さらに、FACSを用いて同様に損傷後4日目で脊髄内好中球を評価したところ、好中球もC5aRA投与群の方が有意に少なかった。過去の結果と合わせ、C5aRA投与により多数の炎症性サイトカイン・アポトーシス・炎症細胞といった炎症カスケードが強力に抑制され、脊髄損傷後の炎症を軽減すると考えられた。 ⅱ) C5aアンタゴニストによる移植効率向上および運動機能改善に対する効果の検証 前年の通り、C5aRA投与の有無、幹細胞移植の有無で脊髄損傷マウスを4群に分け (PBS単独, C5aRA単独, PBS+移植,C5aRA+移植)、損傷後1日目よりC5aRA1mg/kg/dayまたはPBSの連日投与を行った。損傷後4日目にPBS+移植群、C5aRA+移植群に対してヒトiPS細胞由来神経幹細胞の移植を施行した。Rotorrod, Digigaitを用いた運動機能評価においてもBMSscoreと同様にC5aRA+移植群でPBS単独群に比して著明な運動機能の改善が示された。さらに移植後42日目に脊髄組織を採取し免疫染色をおこなったところ、前年度のIVISの結果と同様にC5aRA+移植群で有意に高い細胞の生着を認め、移植細胞の分化傾向は明らかな差を認めなかった。この結果は移植細胞から運動機能を改善させるニューロン・オリゴデンドロサイトへ分化する細胞がC5aRA+移植群で有意に多い事を示しており、運動機能の著明な改善に寄与したと考えられる。以上より、C5a受容体阻害剤は炎症を強力に抑制し、移植効率を上昇させ運動機能を改善させる薬剤として期待される。
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