研究課題/領域番号 |
17H04321
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
小幡 英章 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (20302482)
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研究分担者 |
林田 健一郎 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (40769634)
山中 章弘 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (60323292)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ノルアドレナリン / 下行性抑制系 / 青斑核 / ドパミン / 腹側被蓋野 |
研究実績の概要 |
社会心理的ストレスを与えたラットにおいては、ラットの反復社会的敗北ストレスを与えると、その後に足底に切開を加えた痛みが、コントロール動物に比して遷延することを、研究分担者の林田らのグループが報告した(Arora et ai., Neuroscience 2018;382:35-47)。反復社会的敗北ストレスを負荷したラットでは、脊髄のアストロサイトやミクログリアが活性化し、脊髄後角ニューロンが感作を起こしていた。 慢性痛時に内因性鎮痛系が減弱する機序に関する研究では、研究代表者のグループが以下の論文を発表した(Suto et al., J Pain 2019;20:600-609)。神経障害性疼痛モデル(SNL)作成から6週間経過したラットではNSIAで測定する内因性鎮痛が低下する。NSIAの減弱はTrkBアゴニストの7,8-dihydroxyflavone(DHF)の全身投与で改善する。青斑核のマイクロダイアライシス法でグルタミン酸・GABAを測定すると、DHFはGABAの放出を抑制して、青斑核の痛みに対する反応性を改善していた。抗うつ薬であるアミトリプチリンもSNL6WのNSIAを改善した。抗うつ薬はBDNFを産生することが知られていることから、BDNF-TrkBシグナルによって、青斑核を抑制しているGABAを抑制することによって、青斑核機能を改善することが示された。すなわち慢性痛によって青斑核がGABAによって強く抑制されることが、内因性鎮痛を減弱させる一因であることが示唆された。同様にDHFは脊髄でもTrkBを介してSNL6WのNSIAを改善することを報告した(Kato et al., Anesth Analg 2018 Jun 20 [Epub ahead of print])。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会心理的ストレスに関する実験では、反復社会的敗北ストレスを負荷したラットでは、NSIAで測定した内因性鎮痛が減弱することを確かめた(未発表)。現在はこのメカニズムに関して、青斑核周囲のアストロサイトの役割に関する研究を進めている。また、ラットの腰痛モデルである髄核留置モデルを作成すると、患肢にアロディニアが出現し、40日程度の経過で回復するが、反復社会的敗北ストレスを負荷したラットでは、痛みが遷延することを見出した(未発表)。 一方、神経障害性疼痛モデル(SNL)作成から6週間経過したラットで、青斑核の痛みに対する反応性が低下するメカニズムに関する研究を継続して進めた。青斑核からの細胞外記録を用いた実験で、基礎神経活動は増加するが、前肢へのカプサイシン投与による反応性が消失することを、研究分担者の林田らが見出している(未発表)。
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今後の研究の推進方策 |
社会心理的ストレスに関する実験では、ラットの反復社会的敗北ストレスモデルを用いて引き続き検討して行く予定である。ストレスを負荷した動物では、内因性鎮痛が減弱すること、ストレス負荷後に加えた痛みの回復が遷延すること、などの関係性を明らかにする。その後、内因性鎮痛がストレスによって低下する機序を、青斑核と下行性ノルアドレナリン抑制系に焦点を当てて検討して行く予定である。 一方、慢性痛時に内因性鎮痛系が減弱する機序に関する研究は、今後は腹側被蓋野から側坐核に投射する中脳辺縁ドパミン神経系に関する研究も行う予定である。側坐核に放出されたドパミンは、報酬作用を惹起すると同時に、鎮痛効果を発揮することが明らかになっており、内因性鎮痛機構の重要な経路である可能性がある。
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